第13話 新天地
伯母の家を追い出され、どうやって母の元へ辿り着いたのか、記憶は霞んでいる。
気づけば私は、あの「鈴木」の待つ家の一室にいた。
「お前も来たんかー」
先に身を寄せていた姉は、軽い調子で私を迎えた。
そこから、四畳半の一室で姉との共同生活が始まった。
とにかく、金がなかった。
鈴木も母も、昼夜を問わず泥のように働いている。それなのに暮らしは一向に楽にならない。
聞けば、鈴木には以前営んでいた店の多大な借入金があり、その返済に追われているのだという。
母を奪い、私の家を粉々に壊した憎い男。
なのに、鈴木は驚くほどマメだった。
彼は朝、昼、晩と、私たちのために三食を作り続けた。
時間になると、台所の机の上には「銘々の好みが分かれた食事」が、きちんと並べられていた。
言葉を交わさずとも、彼は私たちの好き嫌いを完璧に把握していた。
疲れ果てているはずなのに、それぞれの好みに合わせた献立を用意し、それを残して自分はまた仕事へと向かう。
主のいない食卓に置かれた、温かい、あるいは冷めかけた皿。
それを見るたび、私の感情はぐちゃぐちゃにかき乱された。
この男を憎みきらなければならないのに、差し出された飯は私たちの「好み」そのもので、空っぽの胃袋はそれを拒むことができない。
「憎悪」と「胃袋を満たしてくれる飯」が同居する奇妙な食卓。
感情をどう昇華すればいいのか分からないまま、ただ月日だけが過ぎていった。
学校へ通い続けられるよう、当時の担任やあの体育教師が教育委員会にまで掛け合ってくれたらしい。その恩義は痛いほど感じていた。
けれど、私の心はもう、教室という清潔な場所には戻れなくなっていた。
十四歳。人生で最も荒れ狂った、けれど冷え切った時期。
私は学校へ行く代わりに、ボイスメールやマッチングサイトの先駆けのような場所で「募集」をかけた。
未成年が大人と平然とやり取りでき、ロリコンが跋扈(ばっこ)していた狂った時代だ。
「十四歳」という看板一つで、群がる男たちに事欠くことはなかった。
皮肉なことに、私は必死に工場で働く母よりも、ずっと効率的に、ずっと多くの現金を稼いでいた。
その頃、姉の影響でタバコを覚えた。
四畳半の部屋に漂う紫煙(しえん)の中で、私はただ、大人たちの知らない場所で自分だけの「生きる術」を、必死に握りしめていた。
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