第38話 臨死体験 2
次に放り込まれたのは子宮の中でした。僕は受精卵になっていました。これが、よくできたもので、遺伝子からの指示というか情報をによって体を作っていくのですが、作る順序も作り方もわかるのです。
ですが、肉体の作り方がわかっても、これがしんどい作業なのです。細かく区切りがあります。区切りごとに一休みです。区切りとは何か? ですが、ここまで作れたら一区切りというポイントがあるのです。輪ゴムを例えに出します。輪ゴムを引っ張ってどこかに引っ掛けたら固定、安定しますよね? ですが引っ掛ける前に手を放してしまったら輪ゴムは元の位置に戻ってしまいます。そのように、作るときは一気に区切りまで作ってしまわないと元の位置に戻ってしまうのです。肉体を作るというのは、黙々とやるツラい地味な作業でした。
『生まれるのも大変なんだなぁ』
と思いました。
ですが、何事にも終わりはあるもので、地道な作業を終えて全ての肉体が完成しました。もう、ヘトヘトでした。疲れ切って休んでいると、僕の体が押し出されていきました。ドリル状に回りながら、僕は眩しい光を見ました。遺伝子情報から、その時の両親が凡人なのはわかっていました。ということは、その時の僕も凡人のはずなんです。凡人として生まれて、凡人の人生が華やかな人生ではないことがわかっていたのに、それでも僕は、初めて光を見たとき、光の中に希望を見出していました。生まれるって、すごく温かい(暖かい)。生まれるって、何故か? 根拠もなく希望に満ちている! そう思いました。
そこで、
『よく頑張った!』
また後ろから引っ張られて連れ去られました。いつの間にか、僕は赤ちゃんではなくなっていました。
次に放り込まれたのは、上下左右、真っ暗な空間でした。最初の暗い空間を思い出しました。
『まさか、最初に戻ったんとちゃうやろなぁ』
すると、視界いっぱいの大スクリーンで動画が流れました。それは、僕が辿ってきた人生。そう、人はこれを走馬灯というのでしょう。
見ていて僕はどうなったのか? 吐きそうでした。きっと肉体があったら吐いていました。何故なら、良かったこと、楽しかったこと、嬉しかったことに比べ、ツラく苦しかった思い出の方が圧倒的に多かったからです。心の『かさぶた』が剥がれて、傷口が開いていくのを感じました。心が痛い。裏切られたこととか、もう済んだこと、思い出させないでくれ! そう叫びたいところでした。
『どうだ? これを見て』
『もう、やめてくれ。見ていられない。ツラい』
『走馬灯は人生の採点だ』
『採点?』
『良いことをすれば、プラス点、悪い行いには減点。この点数で、行くべき世界が決まることが多い』
『それで僕は何点なんや?』
『何点だと思う?』
『合格点か? 何点が合格点か知らんけど』
『まだ、わからん』
『なんでやねん?』
『延命するか? 検討中だからだ』
『延命なんてしてほしくないで。僕は昔から42歳で死ぬって言われてきたから覚悟はできてるねん。死ぬ気満々やで』
『まあ、そう言うな』
僕はまた、ふみつけられました。またか? また、あの大男なのだろうか? だったらそろそろ腹が立つ。
『いろいろな世界で、確かに足掻き、藻掻いてきたな』
『そうや、僕は『足掻き、藻掻く者』やって最初に言うたやろ?』
『違う! それは人生の目的ではない。足掻き藻掻くことが人生の目的か? お前の人生の目的はなんだったのだ?』
『・・・・・・人に、寄り添うこと』
『そうだ、それがお前の人生の目的だ。何故、人に寄り添いたい?』
『誰かに寄り添ってほしいときに、誰にも寄り添ってもらえなかった寂しさを知っているから。そして、誰かに寄り添ってほしいときに、誰かに寄り添ってもらえた喜びを知っているから』
『そうだ! それがお前だ! もし、まだ生きるとしたら、どのように生きる?』
『これまで通り、これまで以上に人に寄り添って生きる。でも、残念やなぁ、僕はこれで死ぬからなぁ』
『わはははは、これを見よ!』
僕をふみつけていた足が離れました。這うようにしながら見上げると、赤ら顔の大男が1つの冊子を持って立っていました。
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