第6話 欠陥パーティー

 キリがなかった。この黒霧との追いかけっこは俺には引き分けまでしかない。初めから向こうの方が有利な、勝ちが見え見えの出来レースなのだ。いくら跳んで跳ねて駆け回っても、歴戦の狩人から逃げることは出来ない。


(だが、この追いかけっこはそろそろ終わりだ。俺の体力はともかく、ミリアの魔力と集中力が限界を迎える)

 いつ死ぬか分からない職業だから悔いはない。最後にこんな強敵と出会えたのだから。だが、俺の胸は寂しさでいっぱいだった。


(一度も剣を触れることもなく、弱ったところを矢で殺される。それのどこが闘争だ! 俺はただ目の前で逃走を繰り広げているだけだ)


 怒りが込み上げてきた。いや天性の闘争者としてのプライドか? どちらにせよ、ここで終わって良いわけがない! 俺とアイツは同じパーティーで命を預けているのだから。


 洞窟内に明かりが灯った。ワイルドハントの体が淡く光り始めた。俺は眼前の敵ではなく、ミリアの方へ視線を向けた。これは回復魔法や治癒魔法が発動しているときの反応。誰が使ったのか、本能では理解していたが確認せずにはいられなかった。


 ミリアと視線が真っ直ぐあった。混じり気のない綺麗な瞳。それを見た直後、俺はこの日初めてワイルドハントに捨て身の特攻を仕掛けた。


 黒霧への対策もなければ、矢をかわす準備も無いもない。だが、攻機に対する俺の嗅覚は冒険者の中でずば抜けている。


 案の定、ワイルドハントの騎馬隊はもがき苦しみ、喉を掻きむしるような動作を繰り返していた。手から武器を話すほどの苦痛、体がない彼らの痛みは想像できないが、そんな同情今は不要である。


 俺は戦闘の一体へ向かって正中線に沿うように剣に勢いを乗せて振り下ろす。すると、真っ二つに割れた鎧は馬と共に塵となって消滅した。


(いける!)

 俺はさっきまでの鬱憤を晴らすかの如く、思うがままに剣を振るった。ちょうどミリアの補助魔法が切れて体に重さが戻った時、洞窟内に流れていた黒霧も、ワイルドハントの群勢も跡形もなく消え去っていた。


「勝った……?」

 ミリアは魔力が切れて呼吸が乱れており、杖にしがみつきながら地面に片膝を突いていた。


「文句なしの大金星だ。お疲れさん」

 俺はミリアの手を引き、肩を貸してやる。


「ありがと。死ぬかと思った〜」

「このくらいの死線でそんなんじゃ、苦労するぜ。なんせ向こう水の俺がパーティーメンバーなんだから」

「はいはい。アンタの無茶は今日覚えたわよ。……今朝ね、セラから冒険者辞めて一緒に診療所やらないかって誘われたの。昨日までの弱い役立たずの私ならそれもいいかなって思ってた。でも、今日オルと一緒に戦って、やっぱりまだ冒険者続けたい。これが私の偽りのない本心なんだって自覚できたの」


 ワイルドハントとの戦闘中と同じ瞳。俺は小さく笑みを溢す。


「俺たちのパーティーだ、好きにやるぞ。誰にも文句は言わせねぇ」

 俺たちは今度こそ、モンスターのいないセーフティーエリアに向かった。

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異世界欠陥狂騒曲 三兎りあん @santorian310

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