「一年経ったら屋敷を辞める」という一見ささやかな謎から始まり、丁寧な語り口の奥に少しずつ不穏さが滲んでいく、完成度の高いホラーよりなミステリーでした。
牛鍋を勧めながら過去を語る構図が印象的です。
語り手の言葉遣いは上品でいて、そこに混じる食べ物や衣服への執着がじわじわ怖い。
懐かしさ、憧れ、欲望が一つずつ繋がっていく感覚があり、読者は「理由」を知りたいまま最後まで引っ張られます。
タイトルの意味が最後に効いてくる作りで、読み終えたあとにもう一度冒頭へ戻りたくなる作品でした。
ミステリーとしてもホラーとしても楽しめる、印象に残る一篇です。
使用人の“私”は仕えていた屋敷の主人へ辞意を伝える。理由は仕えて1年経ったから。……しかして牛鍋を貪る主人へ、彼女は「菜乃」として過去に仕えていた家のこと、自分を大事にしてくれたお嬢様のことを語り出した。そして、自分が彼女から教わった通り、欲望に忠実に生きるために辞めるのだと締めくくるのだった。
本作の謎はまさに「“私”がなぜ1年で屋敷を辞めるのか?」。おもしろいのは本来解答編として分けて語られるべきだろう真相が、“私”の口から滔々と語られることでミステリーの緊迫をホラーの悪寒が上回ってくる点です。
“私”の言葉は実に曖昧で、焦点をぼやかしながら進んでいきます。その曖昧が織り成す模糊をほろりと陰らせる得体の知れない恐さ、たまりません。
しかと語らず、されど明かして証す。ミステリーとホラーはそもそも領域を重ねるところがありますが、本作はその両者の融合が織り成した怪作と言えましょう。
“私”の欲望が果たされるとき如何様な真実が実るのか? いい意味で最悪の読後感をお楽しみください。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
結末まで読んでも“解釈”が難しいタイプのお話でした。「何か読み飛ばしてるのかな?」とか思いながら行ったり来たり。
作者の餡団子様ご本人は「深く考えなくていい」とあらすじに書いておられますが、人によって解釈に幅が出そうなのがまた良いと個人的には感じました。物語の意味をはっきりと記述しないのもまた技術だと思うので。
主人公の「私」こと菜乃は、とある当主に仕える使用人。彼女は当主に得意の『牛鍋』を振る舞いながら、過去の思い出話を語る――。
以前仕えていた由子という令嬢との百合のような一幕に心がホッコリするとともに、どこかホラーじみた不穏な空気が流れます。直接的なホラー描写は全然ないのに、「絶対何かある」と思わせる筆運びが巧妙。
ホラーがお好きな方にもミステリーがお好きな方にもオススメの一作です!
百年前に文豪が書いた私小説のような文体と雰囲気の作品だった。
主人公はある屋敷の使用人、菜乃。
彼女はご主人様に自らが作った牛鍋を食べさせながら、自身がこの仕事を辞めることと、その理由を話す。
不思議なことに、彼女は一年たったらこの屋敷での仕事を辞めるつもりだったらしい。
それはなぜなのか?
菜乃は理由を語る際に、自身が初めて仕えた家の話とそこで出会った波崎由子というお嬢様について言及する。
彼女は子供っぽくて自由奔放で不思議な魅力のある人物で、そんな由子と菜乃の百合っぽい関係が描かれる。
そして暗に示される真相……。
百合作品としてもホラー作品としてもミステリー作品としても文学作品としても楽しめる、素晴らしい作品でした。おすすめです。