第20話
翌日から、ヴォルフさんを間に挟んでゲレス男爵との具体的な話し合いが始まった。
そして数日後、ついに現場へ職人たちがやってきた。
「誰かおらんか! 責任者を出せ!」
門の外から響く野太い声に「はーい」と応えながら外に出ると、そこにいた職人集団が一斉にざわめき立った。
(「おい……見ろよ。本当に『化け物屋敷』に人が住んでるぞ!」)
(「あいつ、大丈夫か? 俺たちまで呪われねえかな……」)
(「バカ野郎! 仕事は仕事だ、シャキッとしろ!」)
(「でも親方、こんな場所に孤児院なんて、子供たちが可哀想じゃねえですか?」)
(「そこは上の考えだ、俺たちの知る所じゃねえ! 腹を括れ!」)
(「「だって親方ぁ〜!」」)
……だ・か・ら! なんであんたたちは、全員揃いも揃って聞こえる音量で内緒話をするんだ!
というか、ここっていつの間にか「化け物屋敷」なんて不名誉な噂を立てられていたのか。心外極まりない。
「あんたが責任者か? 俺たちが今回、孤児院を建てることになった工房ギルド所属の『ドルド一家』だ! で、どこに建てるんだ?」
一歩前に出てきたのは、いかにも叩き上げといった風貌の親方だった。俺は門を出て少し歩いた先にある、空き家になっていた屋敷を指し示した。
「ここです。今ある建物を解体して、新しく孤児院を建てていただく手筈になっています」
「おう、その辺はしっかり聞いてるがよ……。……あんた、本当に大丈夫か? 祟られたりしねえか? うちの若い奴らの中には、ビビり散らかしてる奴もいるんだが」
「大丈夫ですよ。その辺はちゃんと、あのほ……所有者の方とも了解を取っていますから」
「へ……?」
「え……?」
親方が信じられないものを見るような目で俺を凝視してきた。
「……あんた、もしかして。あの噂の『化け物』と、直接話してるのか?」
あー。まあ、化け物と言われれば骨だしそうなのかもしれないが。それにしても、噂、ね。一体どんな尾ヒレがついているのやら。
「まあ……自分、ここの管理人ですしね」
「かぁー……! あんた、すげえんだな。たまげたわ」
親方は呆れたように感心すると、職人たちに向かって「さっさと始めるぞ! で、さっさと終わらせるぞ!」と怒鳴り散らした。……親方、あんたも本当はビビってるんじゃないのか? とは、流石に聞けなかった。
そこから工事が始まった。
数週間はかかるだろうと思っていたのだが、驚いたことに五日目の夕方には、門の前に親方が立っていた。
「おーい! 兄ちゃん、いるかー?」
「親方? 何か問題でもありましたか?」
「……終わった。だから引き上げるぞ。男爵にはちゃんと伝えておくから、あとはそっちで話し合ってくれ。不備はねえ!(……はずだ。不備なんてあってくれるなよ……!)」
だから! もっと小さな声で言え!
親方はそう言い残すと、新しい孤児院の鍵を俺に手渡し、逃げるように帰っていった。
早すぎる。一から建て直して五日とは、一体どういう理屈だ?
後でスケルトンさんに聞いたところ、この世界の建築職人は「建築魔法」を駆使するのだという。魔力制御と専門の術式があれば、基礎から骨組みまであっという間に組み上がるらしい。
知らないことがまだまだ山ほどある。俺はこの世界の非常識さに改めて溜息をついた。
「なぁ、スケルトンさん。ひとつ新たに気になったんだけどさ。孤児院って、普通は教会関連の施設じゃないのか?」
俺の問いに、スケルトンさんはカチカチと顎を鳴らして笑った。
「あぁ、どうなんでしょうね。私の記憶にある限りでは、孤児院と教会の強い繋がりは無かったかと思いますよ。それに、この状態になってからは街の最新情報もなかなか入りませんからね」
ケタケタと楽しそうに笑ってるよ、骨子爵さまは。
「それで、それが何か? リョージさん」
「いやさ。もし教会関係だったら、スケルトンさん……最悪、祓われちゃうんじゃないかと思って」
「……それはそれで、構いませんよ」
あ、そうだった。
この人は、自分が周囲に迷惑をかけている自覚があるから、引導を渡してくれる存在がいるなら歓迎する、というスタンスだった。
「……ごめん。いらん事聞いた」
「なんですか? 私が居なくなったら寂しい、という反応を期待してもよろしいのですか?」
「………………ソウデスネ」
「なんですか、リョージさん! その心のこもっていない反応は。非常に不愉快ですよ!」
空のティーカップを傾けながら、窓の外へ視線を投げたスケルトンさん。……何か言え!
「……で。孤児院のその後はどうなるのですか?」
見事なまでに話を逸らしやがった。
「一応、男爵に話が行って、院長立ち会いの確認が無事に終われば引き渡し、それから引っ越しだったはず」
「そうですか。では、ここら辺も少しは賑やかになるかもしれませんね。……にしても」
「……?」
ふと、彼の声のトーンが落ちた、なんだ?。
「都市再開発、ですか。この街は、さらに変わっていくのですね。……何だか、取り残された気分です」
急にしんみりとした空気を出すスケルトンさん。
長い年月、この屋敷だけで時を止めていた彼にとって、街の変化は残酷なほど鮮やかに映るのかもしれない。なんて言葉をかけたらいいのか迷っていると、彼は不意に顔を上げた。
「まあ、いくらでも変わってくれて良いのですけれどね! 発展なんて素晴らしいじゃないですか。……またそのうちに、変わった街並みを眺めに散歩でもしましょうか」
「ちょっと待ったぁ!! それだけは、騒ぎになるから控えてくれ!」
「おや。これまでに騒ぎになったのは、指折りで数える程度ですよ?」
「騒ぎがあったなら、いかんでしょ!」
この骨、いきなり何を言い出すんだ。
頭を掻きむしりたくなる俺をよそに、彼はまた楽しそうに笑い声を上げた。
「アハハハハ!」
……まったく。なんて明るいアンデッドなんだ。
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