第11話
日はすでに落ち、夜の静寂が支配する街を、俺は冒険者ギルドに向かって急いでいた。
仕事は達成できていない。それどころか、事態は悪化していると言ってもいい。
なぜなら、俺の横には一人の連れがいるのだ。背が高く、少し古臭いが洒落たデザインの外套を纏い、フードを深く被った――そう、あのスケルトンさんである。
彼曰く「街中なら自由に出歩けるから、冒険者の責任者と直接話し合おう」とのことだった。ただし、彼に近づくだけで常人は体調を崩すらしい。そのため、人通りの途絶える深夜を選んで裏道を進んでいるのだが。
「いやぁ、少し外に出なかっただけで、街並みも随分変わるものだね。感慨深いよ」
「……観光気分はやめてくださいよ。問題しかないんですから」
俺の早足に悠々と付いてくる骨の御仁。ようやくギルドの前に辿り着くと、そこには武装した冒険者たちが殺気立った様子で待ち構えていた。……え、なんで?
「貴様が連れてきたのか?」
一番前にいた、スーツをパツパツに膨らませたマッチョメンが問いかけてきた。
「はい。自分では対処できなくて、話し合った結果、ギルドで対応してもらおうと……」
「貴様、この『魔圧』を感じないのか?」
「魔圧……? 魔力の圧力ってことですか? 全く感じませんけど」
俺が正直に答えると、マッチョメンは呆れたように天を仰いだ。
「はぁ。……それでスケルトンの口車に乗せられて、のこのこと街へ連れ込んできたわけか」
騙された? 俺が? いつ、どのタイミングで?
「申し訳ございません。私、魔力は多いのですが魔力制御が苦手でして。ご迷惑をおかけしております」
スケルトンさんが丁寧に応答した瞬間、マッチョメンの顔色が変わった。
「!?此処まで流暢にしゃべれるだと、みんな気を引き締めていけ!」
その号令とともに、魔法や剣技がスケルトンさんへと叩きつけられる。しかし、彼は抵抗することなく、ただ静かにそれを受け続けていた。やがて、攻撃の嵐が止んだ。スケルトンさんは無傷どころか、服の埃を払う余裕さえあった。
「……これでもダメでしたか。私をどうにかできる御方をご存じありませんか?」
スケルトンさんの問いに、マッチョメンが苦々しく口を開く。
「お前の目的は何だ」
「目的と言われましても、ずっと自分の家に暮らしていただけです。ですが、この冒険者さんから聞きました。私があそこにいるのが邪魔なのでしょう? 皆様に迷惑をかけたくないので、私を屠れる方を探して案内していただいた次第です」
「何……それは本当か?」
「ええ。ですので攻撃を甘んじて受けたのですが、期待に応えられない結果となってしまいました」
「あぁん? 嫌味か、骨野郎」
マッチョメンの額に青筋が浮かぶ。スケルトンさん、もう少し言葉を選んでください!
「……分かった。とりあえず、そのスケルトンを元の廃屋に戻せ、新人!」
「え?」
「お前がそのスケルトンに『憑かれている』んだ。当たり前だろ!」
はぁ!? いつの間に憑かれたんだ?
俺が驚いて横を見ると、スケルトンさんは遠くの月を見上げて視線を合わせようとしない。
「スケルトンさん、自由に街に出られるって言いませんでしたっけ?」
「なんだと!?」
「……まあ、落ち着いてください。憑いているのも、自由に街を出歩けるのも、嘘ではありませんから」
ふざけるなー!!
結局、スケルトンさんがあまりに久々の会話が嬉しくて、無意識に魔力を俺と同調させてしまったらしい。魔力制御が苦手なせいで、一度繋がった同調が解けなくなってしまったのだとか。
その夜、俺は彼を伴って廃屋へUターンする羽目になった。
「すみません。本当に、すみません!」
廃屋の食堂で、スケルトンさんが深々と頭を下げている。
魔力制御が苦手なせいで、俺から離れることができないのだという。
……俺の異世界ライフ、これから一体どうなってしまうんだ。
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