第9話

気分を取り直し、まずは『商業ギルド』へ向かう。

大きなマーケットの近くにあり、賑やかな広場を抜けて建物の中へ。ガヤガヤとはしているが、不快な騒がしさではない雰囲気に一安心し、カウンターへ向かった。まずは宿の場所を確認し、それから仕事がないかを聞いてみる。


「……宿の場所については以上です。それと仕事に関してですが、現在ご紹介できるものはございませんね。もしよろしければ、商業ギルドに登録されますか? 手数料と入会費を合わせて、銀貨二十枚になりますが」


笑顔の受付嬢の言葉に、俺は静かに礼を言って立ち去った。……銀貨二十枚。高すぎる。


次は『工房ギルド』。ここは大きな倉庫のような佇まいだった。

中に入ると職人たちの怒声が飛び交っている。事務所らしき場所に顔を出し、相談してみたが。

「今更ですか?」

と、頭の先から足の先まで値踏みするような目で見られた。

「とりあえず、職歴を教えてください」

「えっと……ありません」

「あんた、工房ギルドを舐めてるのか?」

正直に答えたら、本気で怒られた。


さらに次。

『使用人ギルド』はドレスコードがあるのか、俺の身なりを見ただけで門前払いだった。

『治癒ギルド』は……まあ、行かなくても分かる。俺に癒やしの力なんてない。


結局、夕暮れ時に俺が辿り着いたのは、『冒険者ギルド』だった。


気づけばもう夕方だ。前回来た時よりも賑やかさを増した冒険者ギルド。

俺が受付で仕事について尋ねると、男性職員は顔も上げずに「二階の登録カウンターへ」と事務的に案内した。


二階は一階の喧騒が嘘のように静まり返っており、廊下に自分の靴音だけが虚しく響く。


「あの……登録をお願いしたいんですが」

「はいよ、いらっしゃい」


カウンターの奥から現れたのは、丸眼鏡を掛けた細身のおば様だった。

彼女もまた、俺を品定めするような目で見つめる。

「いい歳の男が今から冒険者にねぇ。まあ、良いんだけどさ」


その言葉が胸に刺さる。俺だってそう思っていたから、他のギルドを回っていたんだ。自覚がある分、反論もできない。


「まず、これに必要事項を書いて」

渡された書類の記入欄はシンプルだった。


名前   :ヤタリョージ

出身地  :日本

特技   :魔法

戦闘タイプ:棍棒


「バ、バッカ! 棍棒って……あんた、戦闘タイプってのは前衛か後衛かってことだよ! それに『魔法』? 使えるのかい? 生活魔法じゃなくて、実戦で使えるやつをさ」


「あ、すみません。それなら後衛です。魔法は……以前、ブッシュウルフを二匹ほど倒しています」


俺が答えると、おば様はジロリと書類から視線を外してこちらを睨んできた。……ちょっと怖い。

「まあ良いよ。じゃあ次は一階の奥にある訓練所へ行きな。そこの職員にこれを見せて」


書類には無造作に印鑑が押されていた。ファンタジーな世界なのに、やってることは本当にお役所仕事だな。


訓練所へ向かうと、訓練中の冒険者はまばらだった。時間が悪いのか、それともこの街の冒険者はあまり訓練をしないのか。

入口近くで座っていた男に声を掛ける。


「すみません、ギルド職員の方はどなたでしょうか?」

「ん? 俺だよ。……何、試験か? あんたが?」


またしても驚きの目を向けられたが、男の視線には確かな鋭さがあった。

「まあ良いや。あそこの的に魔法をぶち当ててみな」


どこまでも軽いノリだが、値踏みされている重圧は感じる。

俺は言われた通り的に向き合い、息を整えた。体内の熱を意識し、それを指先へと集めていく。


「『火よ』」


放たれた火球が、吸い込まれるように的に命中し、勢いよく燃え広がった。よし、成功だ!


「はい、これ結果ね。二階の受付に持っていきな」


拍子抜けするほどあっさりとした終わり方だった。何か言われるかと思ったが、男は手早くメモを書き加えた書類を返してきただけだ。それを持って二階へと戻る。


(「ありゃ、予想と違ったねぇ……」)

おば様の独り言は、ばっちり俺の耳に届いている。聞こえてるっつーの。


「はいよ。これが登録されたライセンスのタグだよ。あんたはEランクからだ。まずまずの評価だよ、ただ……歳がねぇ」


またもギョロリと目を見開かれる。悪かったな、おっさんで!

渡されたのは、小さな銅板が二枚重なったようなタグだった。Dランクまではこの板の枚数で判別できるらしい。Cランクからは別格の扱いだそうだが、今の俺には遠い話だ。

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