第7話
冒険者ギルドを一歩外に出ると、空はすでに茜色に染まり始めていた。
街の出入り口に目を向ければ、大きな獲物を背負って帰還する冒険者たちの姿がいくつも見える。……なるほど、獲物を担いで歩くのが彼らの日常なら、俺が間違われるのも無理はない。ようやく納得がいった。
とりあえず、他のギルドを回るのは明日だ。暗くなる前に今夜の宿を確保しなければ。
そう意気込んで街中へ足を進めたものの、勝手が分からずなかなか宿が見つからない、冒険者ギルドで聞けばよかった。途方に暮れた俺は、空腹に耐えかねて残りの干し肉を口にしながら、広場の噴水に腰を下ろした。
噴水の音を聴きながら、独りごちる。
「……街に来てまで野宿か? それだけは避けたいんだがなあ」
空いている宿の当てもなく、途方に暮れていたその時。
ふと足元に小さな気配を感じて視線を落とすと、犬耳を生やした子供が、わきに置いておいた食糧袋の干し肉を夢中で盗み食いしていた。
「おい……?」
ビクン! とその子の耳が立ち、しっぽの毛が逆立った。
「わっふ!?」
驚くくらいなら盗むなよ。というか、逃げるなりなんなりすればいいのに、その子は固まったまま動かない。
「おい、それ食っていいから、ちょっと俺の質問に答えてくれ」
なぜだか、自然にそう言葉が出ていた。
「ふぁに(何)?」
怯えていた割に、口をもぐもぐさせながら聞き返してくる。意外と図太い神経をしているのかもしれない。
「この辺で、安心して泊まれる宿を知らないか?」
こんな子供が知るはずもないか、と心の中で苦笑いをした。
だが、その子は立ち上がると、俺の手をぎゅっと取ってぐいぐいと引っ張り出した。
「知ってるのか?」
「うん」
半信半疑のまま、小さな手に引かれてついていく。街の中心部を抜け、次第に景色は静かな住宅街へと変わっていった。
「なあ、大丈夫か……?」
「うん」
不安が募るが、最悪の場合はさっきの噴水に戻って一晩明かせばいい。
住宅街も通り抜けた先に見えてきたのは、古びた木造アパートのような、あるいは教会のようにも見える建物だった。
「ただいまー!」
「いつまで外にいるの? 危ないから日が暮れる前には戻りなさいって……って、誰ですか?」
奥から出てきたのは、いかにもシスターといった服装の、人族のお姉さんだった。
「孤児のおじさん、帰る家無いって。連れてきた」
「ぶふぅ!!」
あまりの発言に、盛大に吹き出してしまった。確かに帰る家はないけれど、孤児のおじさんって……。
「何を言ってるの!? 得体の知れない人を連れてきちゃダメでしょ!」
「でも、優しいよ。干し肉くれて、怒らなかった。へへへ」
「レム! また盗み食いしたの!? ダメだって何度も言ってるでしょ!」
どうやら、このレムという子は常習犯らしい。
「違う、くれたの」
「そんなわけ……本当ですか?」
シスターが、値踏みするようにこちらを伺ってきた。
「え? ええ、確かにあげました。その代わり、安心して泊まれる宿を知らないか聞いたら、ここへ……」
俺が事情を説明すると、シスターは眉間に深い皺を寄せて考え込んでしまった。
「……こんな子供が、宿のことなんて知っていると思いますか?」
少し怒気を含んだ物言いに、申し訳なさがこみ上げる。
「ですよね」
本音が出てしまった。怯えた姿に同情して、少しでも警戒を解ければと思って聞いたまでだったのだが……まさか、こんな展開になるとは。
「すまんな、騒がせて。おじさん、ちゃんと宿を探すから」
潮時だ。さっきの噴水まで戻って、一夜を明かそう。そう思って踵を返そうとした、その時。
「だめ! おじさん、わたしと寝るの!」
「「は?」」
俺とシスターの声が完璧に重なった。この子、何を言い出すんだ。
レムはそう言い張ると、俺の腕にぎゅっとしがみついて離れない。
「あの……」
今度は完璧に「不審者を見る目」――警戒MAXの状態で声をかけてきたシスターに、俺はただただ、たじろぐしかなかった。
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