濃くて力強い、緻密な比喩表現と繊細で叙情的な内面描写に惹きつけられました。
誰だって自分のことで手一杯で、自分自身は自分で守るしかありません。冷たい世の中だと何度も感じました。
以前、酔い潰れて寝こけた女性に寄りかかられ、降車駅をひとつ逃したことがあります。その時私は、「時間を無駄にした」と思いました。帰ってゲームがしたかったんです。とっても冷たい反応をしてしまいました。今思うと、その方は1人で酔い潰れるくらい、仕事や私生活に疲れていたのかもしれません。もっと優しくすればよかったです。
最初は内なる恐怖。
駅のホームで、私は誰かに背中を押される恐怖に身を駆られています。安全は輪郭を失い、不穏な影がひたひたと忍び寄る様子に圧迫感を覚えました。
疲れからの自己像の揺らぎから始まり、混沌とした静かな歪みが増大します。内在する自己から電車内へ、そして――。それはじわじわと広がっていきます。認知、感覚、幻想。私という人間が緩やかに侵されていく展開にゾクリとしました。
何ひとつ確実なものが担保されていない世の中で、他者が手を差し伸べてくれることや、わずかな温かさを、心のどこかで求めてしまいます。
揺らぎが切なくも、読後感は情感の余韻残る、深みのある作品だと感じました。
人生になんとなく疲れているとき、言葉では言い尽くせない共感が湧き出てくるかもしれません。