第百六十話 逆襲のプレイヤー



 ずん、と前足を大きく開いき、中足の爪を振りかぶって威嚇するボス。


 その昆虫と獣が入り混じった奇妙なスタイルに対して、私はマシンピストルを向ける事で意思を示した。互いの闘志がぶつかりあうのを示すかのように、ロック調のBGMが鳴り響く。


『あれがここのボスですか……! なんて奇怪な姿……』


「そうかね。メタルインセクト、っていう名前からするとむしろ自然な気がするけど」


 基本的にあれらが昆虫をはじめとする無脊椎動物の構造を模した機械であるならば、獣型の方が不自然ともいえる。言うなればあのボスは、節足動物型から獣型へと移行する過渡期の設計、みたいな感じなのだろうか。


 まあ世界観設定を考察するのはまた後だ。今は、コイツを今度こそ倒す!


「先手は貰う!」


 唸りを上げる二連機関拳銃。吐き出される拳銃弾がボスの頭部に集中し、無数の火花を散らした。


 ボスはうっとおしそうに銃撃から顔を捩り、巨体でありながら滑らかに左右に回避機動。カモシカのようなステップを踏みながら距離を詰め、中脚の巨大なナイフのような爪を振りかざした。


 それに対し、こちらはフレキシブルアームをうねらせる。先端のビームチェーンソーが、危険な輝きを放った。眩い光が、ボスのビー玉のような丸いカメラアイに反射する。


「喰らえ!」


『ギャウゥン!?』


 振りかぶったアームが、間合いを飛び越えてボスの右肩に直撃する。火花を散らして回転する荷電粒子の鋸が、巨大なボスの分厚い肩を切り裂いていく。


 怯んだようにボスが後ろに下がるのに合わせて、アームを引き戻し、そしてもう一度振りかぶる。唸りを上げて繰り出された二撃目を、しかしボスはひらりと回避した。それを追って二度、三度とアームを鞭のように振り回す。


 それらはいずれも直撃しなかったが、回避し損ねたボスの足へと切り傷を与える。オーバーヒートに伴いアームを巻き取り、代わりにマシンピストルの引き金を引く。


 狙いはチェーンソーでついた切り傷だ。集弾性の低さはバースト射撃でカバーして、脆弱な内部機構に弾丸を撃ち込んでいく。


 ボスはたまらず、といった様子で特に大きな右肩の切り傷を庇うようにして下がっていく。狼というよりチンパンジーかゴリラのような動きで距離を取るボスに、隙を見てマガジンをリロード。


 ガコッ、と箱型のボックスが地面に廃棄され、ピストルを腰に叩きつけるようにして新しいマガジンを装着。片手でロックを固定して、マガジンごとラッチからむしり取るようにして再び構える。


「よしよし」


 相手のHPを確認すると、四分の一ほどが早速削れている。ビームチェーンソーの一撃がかなり効いたらしい。マシンピストルの方は牽制以上の効果は発揮していないが、それで十分。このまま射撃で出頭を抑えつつ、ビームチェーンソーを叩き込んで削っていきたいが、まあそう上手くいくかな。


『グルル……』


「傷口が……!」


 テレサの驚愕する声。先ほどビームチェーンソーの一撃で与えた大きな切り傷、その断面からじわじわと何か赤黒い液体が染み出してくると、表面で固まっていく。ポリマー的な液体だろうか、みるみるまに傷口は塞がり、ボスは身動ぎするようにして体を震わせた。


 なーるほど。ボスの体表、ケロイドみたいなデコボコの装甲はああいう感じで構成されたのか。しかし、これまでのメタルインセクトには見なかった機構だな。この特殊環境に適応した結果だろうか。


『自己修復能力……?!』


「見た目だけだよ、断裂していた駆動機関とかは修復されてない。その分、複数の駆動系をもっている冗長性に長けた構造みたいだけど、それは無駄が多い。惑わされずにダメージを蓄積していこう」


『は、はい……』


 そう。どれだけ生き物っぽくても所詮メタルインセクトは機械だ。構造を生物に近づけた事で耐久性が上がっても、本質的な部分での修復は出来てはいない。機械というのは業者に預けてオーバーホールしないと元には戻らないものなのだ、それが分かってない人も多いけど。


『グガルルル!』


「っと、今度はそう来るか!」


 ばっ、と跳躍したボスが、酸の泉を飛び越えて洞窟の壁に張り付く。そのまま勢いよく外周をぐるぐる回って、どうやらこちらのロックオンを振り切るつもりのようだ。


 人型の足をつけて旋回しつつ、右腕のピストルでそのシルエットを追いながら引き金を引くが、追い射撃では命中率がよろしくない。上下に蛇行するように動くボスの姿をとらえきれず、かなりの弾丸が虚しく壁を撃った。


 それでも動きに慣れてきて、手動でその移動先を予測してピストルを大きく振った直後、まるでそれを読んでいたボスが跳躍した。


 車は急には止まれない。


 突然の変調に対応できないこちらの頭上を飛び越えて、反対側の壁に飛び移るボス。それを追って振り替えった時には、その姿は既に影も形もない。


 レーダーに咄嗟に目を落とす。……背後!?


『きゃあ!?』


「くそっ!」


 衝撃。


 壁から天井、そして床へと三角飛びを決めたボスが、背後からレッドスカラベに組み付いてくる。がっちりと前足でこちらの本体を捕らえ、中足の鋭い爪を何度もひらめかせる。


 装甲に火花が散り、コクピットが激しく揺れる。絶体絶命のピンチ……と思われるが、さて。どうかな。


 私は視界を揺さぶられながら、機体のステータスに目を向ける。そこには、ボスの猛攻にもかかわらず、対して減っていない機体のHPが表示されていた。


「悪いがそんな薄っぺらい刃物じゃこっちの装甲は削れそうにないな?」


 伊達にこんなダンゴムシみてーなコクピットシェルをしていないのである。ボスも違和感に気が付いたのか、爪だけでなく牙で齧りついてアムアムしているが、真ん丸なシェル故に上手く噛めないで苦労している様子。相手の攻め手が緩んだところで、私は左手のフレキシブルアームを振るった。


 自由自在に曲がるアームが、ぐにんと曲がって背後のボスへと襲い掛かる。先端のビームチェーンソーが唸りを上げ、ボスの背中や腕を何度も切りつけた。


『ギャアウン!?』


「ほれほれ、さらにいくぞ!」


 キャタピラを回転させてバック移動。押さえつけてくる爪との間で火花が散り、さらに押しやられたボスの体が酸の泉へと近づいていく。相手も必死に押しとどめようとするが、そこに何度も叩きつけられるビームチェーンソー。


 とてもたまらぬ、といった様子でボスはひらりと身を翻し、再び壁際に退避。よたよたした動きで壁走りして距離を取ると、浮島の反対側に着地した。


『ガッ、ギルルゥ……』


 再びの仕切り直し。しかし状況はこちらに有利だ。何度も切りつけられて全身新しいカサブタだらけのボスに対し、こっちはコクピットの装甲を爪とぎされた程度。そう大きな被害は受けていない。


 機動力を生かしてこちらの不意を突こうとしたボスの行動が、ことごとく裏目に出ているのはなかなか小気味が良い。


 とはいえ、機動力の差で先手を取られ続けているのも事実だ。そろそろHP的にも行動変化のタイミングだろうし、油断は禁物である。


『警戒してください、敵メタルインセクトの温度上昇を確認! 出力を向上させていると思われます!』


「後半パターン来たか……!」


 流石にそろそろ、第二形態移行はお約束になってきた。さあて、何をしてくるかな?


 変身中に攻撃するのは無粋と、警戒しながらも相手の様子を伺う。


 一方のボスは全身から蒸気のようなものを立ち昇らせながら、前足だけでなく中足も地面について、六本足で地面に踏ん張っている。その頭部が、メキメキと音を立てて避けていき、それはついに胴にまで達する。


 唖然として見ている前で胴体部すらも背中側に向かってぱっくりと上下に裂け、その間にぎらり、と無数の牙のような突起物が輝いているのが見えた。


 え。これは……。


「く、口の化け物……?!」


『どういう構造の兵器なんですかこれ……?!』


 テレサと揃って二人で唖然とする。今や敵ボスは、ぱっくりさけた巨大な口の左右に足が生え、鼻先に頭が小さくくっついているという異形の姿へと変貌していた。深海魚もびっくりな大口お化けである。


 ロボットというよりもはやモンスターパニックのクリーチャーみたいな変形をしたメタルインセクトは、さっきまでの俊敏な動きはどこへやら、六本足をドタバタと踏み鳴らしながら不細工な動きで正面から突進してくる。ぐわあ、と大きく開かれた上あごの上で、つぶらな丸い目がやたらと印象に残った。


「き、気持ち悪ぅ!!」


 正直な感想を叫びながら、マシンピストルを突きつける。ゆらゆら揺れながら迫ってくる大顎に向けて全力射撃。開かれた上あごの裏側に、バスバス銃弾が突き刺さり薄い肉を貫通。赤黒いオイルだか何かが噴き出すが、ボスの動きは止まらない。


「効いてない!?」


『駄目です、上あごはフレーム以外はスカスカです、ピンポイントでフレームを狙わないとダメージになりません、あれはデコイです!』


「本体は下顎の方か!」


 テレサの忠告に慌てて狙いを変えるが、一歩遅かった。急に動きが早くなったボスが、バクリと大顎を閉ざして右腕に噛みついてくる。握りしめたマシンピストルごと、人型部分の腕が牙に齧りつかれ、そして一息で食い千切られた。


「うわあ!?」


 引き千切られた衝撃で、機体が数歩後退る。ボスはというと、食い千切った腕を口の中で解体している真っ最中だ。激しい火花が口腔部から噴き出し、数秒後に再び開かれた大顎の中には細かいジャンクがひっかかってるのみ。


 大顎の威力を見せつけたボスが、デモンストレーションはここまで、と再び大口でかぶりついてくる。低い姿勢から体を斜めに傾けての噛みつきが、こちらの人型部分の足を捕らえた。


 再びすさまじい力で引っ張られる。機体のフレームが、メギメギと音を立てる嫌な音がコクピットにも響いた。




◆◆




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