スイッチを押すとき
ついに、塔の頂上へとたどり着いた。何故そこが頂上と思ったかと言えば、それ以上うえへと向かうための梯子や階段が存在しないからだ。
塔を登るにつけ上昇した心拍や動悸を落ち着かせ、いっそ「来てやったぞ」とのたまいたくなる逸るような気を何とか宥めながら、部屋の上部に設けられた天窓から、月を仰ぎ見た。
「ほら、来たぞ」
長方形の天窓によって猛禽類の瞳のように鋭く切り取られた黄金の月が少しして口を開く。
「……ようやく、この日が来たのか」
それは、言葉通りこの時を待ちわびていたかのような、しかし、それと同時に来て欲しくもなかったような、絶妙な心境が感じ取れた。
「赤く、丸いボタンがあるだろう」
塔の頂上では何のための機械かまったく解らないような、一切の生気を感じさせない電子パネルの一角に、紅く妖しく瞬く、まん丸のスイッチが押下されるのを待ちわびていた。
「それを押すんだ」
「……」
まじまじとスイッチを眺める。単なるボタンではないことはすぐに分かった。
世界を書き換える決定権を持った不可逆的変更の象徴のように紅い注意をばらまいている。
これを押せば、明日が変わるかもしれない。退屈な日々が終わるかもしれない。週末の試合ではホームランが打てるかもしれない。
希望に似た幻想とともに、ボクはスイッチを押した。
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