バロウズの亡霊がカクヨムに降り立った——そう言っても過言ではないほど、この作品は異質な存在感を放っています。
「THE CAT UP」は、ウィリアム・バロウズとブライオン・ガイシンが生み出したカットアップ技法を用いた、全25話の実験的な短編集です。新聞、小説、歌詞、街の看板、日常の言葉——それらをランダムに切り刻み、貼り合わせることで生まれる新しい文章の数々。「諜報員」「1954年タンジール」「柔らかい機械」といったタイトルだけでも、バロウズ的な世界観が滲み出ています。
正直に言えば、この作品を「面白い」という言葉で形容するのは適切ではないかもしれません。作者自身も述べているように、ストーリーもプロットも存在しない。山形浩生氏の研究に倣えば、1200文字に一つ面白い文章があるかもしれないそんなレベルの話です。退屈を覚悟で読む必要があります。
しかし、それこそがカットアップの本質です。意味を強制的に解体し、偶然性の中に新しい詩的瞬間を見出す行為。読む側もまた、受動的な消費者ではなく、能動的な意味の再構築者となることを求められます。
瀬尾正博さんのライフワークとも言えるこの試みに、前衛文学への敬意を感じる一冊(一作)です。バロウズやビート文学に興味がある方には、ぜひ体験していただきたい、唯一無二の作品です。