2章

第六話:仮面の祝典、および不透明な選別

王立学園の正門を飾る石造りのアーチは勝利者の凱旋門のような不遜さで、うららかな春の陽光を遮っていた。

ハクはその巨大な影に足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような違和感に眉をひそめた。

門柱には歴史という名の苔が産毛のように生い茂り、選ばれし者たちの栄光を何世紀にもわたって見守ってきたという自負が石の冷徹な重みとなって押し寄せてくる。


ハクの胸中を占めていたのは期待ではなく、どろりとした濃密な疑念であった。

なぜ、僕なのだ。


「戦士」という砂塵にまみれたありふれた殻を脱ぎ捨て、「殉教騎士」という秘匿された、いわば神への冒涜にも似たジョブに手をかけたあの日から、彼は自らの爪を隠し続けてきたはずだった。

闇業者に魔物の素材を売る際もボロ布を纏い、顔を隠し、実力の片鱗さえも見せぬよう、泥を啜るような細心の注意を払ってきたのだ。

それにもかかわらず、学園はこの隠遁者の隠れ家を見つけ出し、あろうことか「家族の生活」という名のもっとも卑劣で、もっとも洗練された暴力を用いて彼をこの華美な舞台へと引きずり出した。


学園側には僕の肉体に深く刻まれた「殉教の刻印」を、まるで顕微鏡で覗き見るように看破する透徹した眼識を持つ者がいるのか。

あるいは僕のあずかり知らぬ場所で運命という名の巨大な指が、一匹の羽虫を摘み上げるように僕を選び取ったのか。

どちらにせよ、ここには自由など存在しない。

あるのは管理された秩序という名の磨き抜かれた牢獄だけだ。


学園内は徹底した「順位(ランク)」の哲学によって統治されていた。

学園の回廊には現時点での全生徒の序列が、血の通わぬ冷たい魔導板に刻まれている。

卒業時に首位を占めた者には「最高特待生」として、一族の繁栄を約束する終身扶養権と免税特権が与えられる。

それは貧窮に喘ぐハクにとって喉から手が出るほど欲しい果実であったが、同時に、その果実には「服従」という名の猛毒が染み込んでいることも理解していた。


ハクは掲示板の最下端、もっとも不潔な場所に己の名を見出した。


「七百二十一位」


新入生の中で最高評価を得ていながら学園の法によれば、新参者は常に既存の秩序の最底辺から這い上がらねばならない。

その数字はハクにとっては屈辱ですらなく、むしろこの欺瞞に満ちた組織がいかに「数」という抽象概念に依存し、人間の実存を軽んじているかを露呈しているようで滑稽ですらあった。


「ハクさん、新入生代表の挨拶の準備を。時間は刻一刻と、残酷なまでに進んでおりますよ。」


背後から声をかけた教師の瞳には湿った期待と、それ以上に深い解剖学的な「観察」の色が混じっていた。

ハクは無言で頷き、講堂へと向かった。

彼の心を満たしているのは栄誉への期待ではない。

この虚飾の舞台をいかにして最短距離で駆け抜け、秩序の喉元に食らいついて家族の安寧を奪い取るかという、飢えた狼のような冷徹な打算だけであった。

ハクの歩みは大理石の床に硬質な音を響かせ、春の微温を断ち切っていった。

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