第二話:血肉の洗礼、および反復の迷宮

翌朝、ハクは支給された安物の鉄剣を手に魔物の潜む森へと足を踏み入れた。

森は緑の浸食を受けた巨大な伽藍のようであった。

木漏れ日は断罪の刃のように地上を刺し、湿った土の匂いが死と生の混濁を告げていた。


ハクにとって、剣を振るうという行為は単なる戦闘ではなかった。

それは、己の不完全な肉体を冷徹な「機能」へと昇華させるための宗教的な儀式であった。

最初に出会ったゴブリンの首を撥ねたとき、噴き出した生暖かい返り血がハクの未成熟な頬を汚した。

その不潔な温もりに彼は倒錯した悦びを感じた。


「一、二、三……」


ハクは数を数えた。剣を振る回数ではない。殺した数でもない。

己の肉体が、どれほど純粋に「機能」へと近づいたかの律動を数えていた。

彼は、レベルを上げるという数字の蓄積を美的な昇華と捉えていた。

筋肉が悲鳴を上げ、肺腑が焼けるような呼吸を繰り返すたび、彼は「少年」という曖昧な輪郭から解き放たれ、一つの「武器」へと変貌していく。


夕刻、泥と血にまみれて帰宅するハクを母アカネは言葉もなく迎えた。

彼女は息子が持ち帰るわずかばかりの換金素材とそれ以上に増えていく傷跡を天秤にかけ、密かに夜の静寂の中で涙を流した。


「ハク、そんなに無理をしなくても……十五歳になれば、学園に進学できるかもしれない。そうすれば、もっと楽な道が……」


「学園など、贅を尽くした遊技場に過ぎないよ、母さん。そこで教えられるのは洗練された無能だけだ。」


ハクは冷ややかに答えた。

十五歳になれば、才ある者には「王立学園」への道が開かれる。

だが、その学費という名の数字の羅列は今の彼らにとっては、生存を脅かす呪詛でしかない。

ハクは、学園という名の温室で時間を浪費することを拒絶していた。

彼が必要としているのは教科書のインクではなく、絶体絶命の瞬間、首筋を撫でる死神の冷たい息吹であった。


彼は知っていた。

特定のジョブが別の何かに変容するためには凡庸な努力では足りない。

肉体が精神を追い越し、存在そのものが極限の熱量を発したとき、運命の歯車は初めてその傲慢な回転を止めるのだ。


ハクは弟アオの眠る横顔を見つめた。

この純粋な無垢を維持するためには自分という生贄が、さらに深い血の池に浸らねばならない。

彼は再び、月光に照らされた剣を研ぎ始めた。

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