第8話:レアメタル鉱脈

* 第二章:レアメタル鉱脈:


*** 第一節:探査:


 月の裏側に到着してから半年が経って、やっとジェットモグラが完成した。

 もともと一年間のプロジェクトなので、ちょうど折り返し点でオンスケジュール。


 準備フェーズから調査フェーズに変わるので、作業用アンドロイド達の役割を変更するために、ニューラルネットのモデルと係数を、理は書き換えた。

 そしてセレイナとウリエルとともに、準備が整ったジェットモグラの操縦室に乗り込む。

 ジェットモグラは、鼻先の回転ドリルをその座標の地面に突き刺し、レアメタル鉱脈を目指して掘り進んだ。


    *


「深さ、マイナス2,1,0。目標地点に現着。サンプル採取。分析……」

 作業用アンドロイドが、上位者のウリエルの指示を復唱する。


 ウリエルは作業用アンドロイドの首についたジャックから、彼のニューラルネットにアクセスしている。役割分担としては、大脳と小脳の関係だ。

 3Dフォログラフ表示器キュービックを器用に頭上で回転させながら、ウリエルはレアメタルの濃度グラフを見ている。

 成分分析の結果は、レアメタル成分がないことを示唆していた。


「私の直感だと、この座標には、キラキラかがやく宝石が入ったオルゴールのような、イメージが見えたのだけど〜」 セレイナが口をとんがらせて口笛を吹く。

 最初の掘削場所は、セレイナのカンで決めた場所だったのだ。


「理様、直感頼みは時間の無駄だと思われます。ここは戦略的に行きましょう」

 ウリエルが、セレイナのお気持ちに釘を刺す。


「理様、私の掘削戦略を聞いてください。

 まず、調査範囲を十九かける十九のます目に区切ります。

 その交点に対してIDをふり、そのIDに対してランダムに掘削する深さを決定します。

 小型ドローンモグラで、それらの地点のサンプル群採取・分析します。

 それを元に、レアメタル密度の三次元マップを作成します。

 そのマップからレアメタル鉱脈の場所を推定し、そこを中心的に狙います」

 ウリエルは掘削戦略を流暢に説明する。


「では、その戦略でやってみよう」

 理はウリエルの案に相槌を打つ。ウリエルは満足そうにうなずく。

「最初の場所は、天元中心からかな? 」

「はい、周辺からよりも、中央から外側の交点に向かって探索範囲を広げるのが良いと思います」


 ウリエルと理だけの会話に不貞腐れたセレイナは、「私、休憩室でチャージしてくる」と言って操縦席から休憩室にひらひら飛んでいった。


*** 第二節:みつけた:


 ドローンモグラが採取してきたサンプルを分析した結果を、3Dフォログラフ表示器が映し出している。理、ウリエル、セレイナは、レアメタルの三次元濃度分布図を見ている。

 サンプリングは総ての交点の所で行っていないので、未計測な場所は、外挿した結果が表示されている。


「鉱脈だから、流れる川のような密度変化を想像していたのだが……」「この座標が変曲点ですね。濃度分布の微分係数が大きい……」 理とウリエルは顔を見合わせる。


 座標(X、Y、Z)=(10、10、19)。


 ちょうど天元の最深部に、ルテニウムとイリジウムの強い反応が観測された。

 そこは、直径三メートル程の半円球に唐傘をかぶせた形をした物体虚舟があった座標の地下だった。


 Z軸を外挿して表示してみる。

 そこには、大きな卵型の物体が浮き上がった。


「計測範囲の天元ど真ん中、その最深部に探し物があった、という事なのね」 ウリエルは天を仰ぐ。

「案外、虚船が坑道を隠していたのかもね」 セレイナは、頰を膨らませて、眼を見開いている。


「とにかくその座標に向かって掘り進めよう。そこへ到達すれば、おのずと答えは明白になる」 理は、あくまで冷静だ。

「よ〜し、ジェットモグラ加速。目標はレアメタル鉱脈。ジェットモグラ ア ゴー 」


 セレイナが勢い良く宣言する。作業用アンドロイドが、それを復唱し、ジェットモグラは目的に向かって掘り進んだ。


 レアメタル採掘を始めるまでの下準備の間は、まだ和やかな会話が行われていた。

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