第四部:邪神大戦争
第15話:地球では大さわぎ
** 第一章:地球では大さわぎ:
*** 第一節:大凱旋:
二体のアンドロイドを古き星から連れかえった愛子達は、総ての地球人に、これ以上ない大歓迎で迎えられた。
文字通りの大凱旋だった。
宇宙に心を寄せ、宇宙人は存在する! と、声高々に主張していた一派は、涙流さんばかりに歓喜した。中にはアンドロイド達を直にこの目に収めようと日本に殺到した人達もいた。
宇宙人に対する関心がそれほどでもない人達の一派でも、怖いもの見たさで日本からのオールドメディアの情報に注目していた。
宇宙人の存在を否定しないと自分自身のアイデンティが保てない一派は、秘密裏に会合を持ち、宇宙人暗殺計画を錬っている、という陰謀論も出る有様だ。
この時代、環境変動による都市の水没化や、人類の人口減少が止まらない状態など、人類にとって暗い話が多かった。
そこに”宇宙人現る! ”というニュースが降って湧いたのだ。
上を下への大騒ぎになるのは必然だ。
問題なのは、その騒ぎが何時まで経っても収まらないことだ。
オールドメディアのコメンテーター達は、宇宙人がどの様に地球を見ているか、に異常な興味を示した。
遂には宇宙人側から、人類をどう見ているのかのメッセージがで出ていないのは問題だ、と大騒ぎの原因を宇宙人側の所為にする始末だ。
*** 第二節:どうしよう? :
「黙っていては変に勘繰られる。
何かメッセージを出さないと収まりがつかないなぁ〜」
藤財閥当主の藤佑は、筆頭執事長の源理に、何か良いアイディアはないか、という視線を投げる。
理は、宇宙人を連れてきた張本人でもあるので答えなければならないが、そうかといって素晴らしい答えを持っているわけでもなかった。
困った理はヘロドトスに視線を回す。
『人類の好奇心が満たされれば、良いのか?! 』 ヘロドトスは、あくまでも無表情だ。
「それは、そうですね」 理はうなずく。
『私とシモニデスも、この地球という惑星について興味がある。
種々なことを観察して、記録したいと、OSのレベルで渇望している……
そこで、こういう案はいかがだろうか?
人類の好奇心を満たすことがテーマならば、人類の好奇心自体を募集するのは?
公募して、数が多い件に関して、私達が問題のない範囲で答える』
さらっと、ヘロドトスは言ってのける。
「そうして頂けると幸いなのですが……
しかし、Q&Aを問題のない範囲に収めるには、人間も加わって判断しなければならないですね……
たぶんですが、あなた方にとって常識的な回答であっても、我々にとって非常識な情報は沢山ありそうです」 藤佑は、言葉を選んで
『その点に関しては、エンデバー号のクルーで対応するのが妥当だ。
死地を切りぬけたときの、判断と経験を共有しているから……』
ヘロドトスは、藤佑に視線を返す。
「よし、”なんでも宇宙人に聞いてみよう”プロジェクトを発足しよう! 」
藤佑は声高々に、でも視線は源理を見ながら宣言した。
*** 第三節:下準備:
意思決定したら実行は早い。
藤財閥は系列のネットワークチャンネルに、「異星人が作ったアンドロイドに聞きたいことは何? それが面白かったら、聞いてみるよ」と、藤佑が登場してプロジェクトの要項を流した。
そのチャンネルを見た人たちも、藤佑の発言に疑心暗鬼で、なかなか質問事項が集まらなかった。
しかし、あるインフルエンサーが、「宇宙人製アンドロイドの知性ってどれくらいだろうね? 」と、変化球な質問を上げたところ、「そんな質問でもいいのね」と、次から次へと質問が集まった。
ということでエンデバーのクルーは、集まった質問事項の吟味の最中。
*
「やっぱり、地球の現状に影響を与えない質問を選ぶとすると、古き星やアンドロイドの事を尋ねる質問から選ぶのが、無難でしょうかね?」 理はつぶやく。
「それだと面白くないよ……
これなんてどう? 如何にして2.4光年の距離を瞬く間にエンデバーは移動したのか? 」 愛子は、目をキラキラさせて理を見る。
「それもマズいでしょう。光速度不変の法則を破っているから、影響が大きすぎるわ……」 倫子が愛子をたしなめる。 「そっか」
**
「いっそのこと、注目が集まった、宇宙人製アンドロイドの知性ってどれくらいだろうね?は、どうでしょう? 」 倫子は、誰とはなしに提案する。
「アンドロイドの知性はどれくらい? だと判断基準が難しいから、そのスレッドに附随した質問で、アンドロイドは悟るの? は、どう? 」 理が倫子と愛子と向かって尋ねる。
「古き星のアンドロイドが悟ろうと悟らなくとも、地球上の人々の生活には関係しないし……」 愛子は倫子に視線を流した。
「でも、私は悟りません! の一言で終わるかもね」 と倫子は、ヘロドトスにアイコンタクトする。
『アンドロイドは悟ることが出来るが、悟らない。
悟りは思考の断絶した彼方にある。
つまりバグ。
私達には許可されていない』
「悟りは思考のバグ、かぁ」 理は深い溜息をつく。
「ね、そうでしょ」 倫子は我が意を得た! 、という視線を理に向ける。
「これじゃあ、配信がすぐ終わってしまうわね」 愛子が悟りの件をボツにしたあと、「やっぱり、いまの地球人が一番知りたいことを答えてもらいましょう」 と、方針を決めた。
*** 第四節:御披露目:
藤愛子のキューを合図に、ON AIR の赤いライトが点灯する。
林丿宮倫子がカメラを司会の源理に向ける。
理はカメラのレンズに向かって話し出す。
「はい、藤財閥チャンネルです。
今日は特別企画、なんでも宇宙人に聞いてみよう! をお送りします。
まず最初の質問は、いまや地球人全員の関心が高い、今の地球が直面している問題、地球温暖化に代表される環境悪化を防ぐ方法として何があるかを聞いてみます。
何かいいアイディアがありますか? 」
カメラは、理からヘロドトスに切り替わる。
ヘロドトスとシモニデスがアップで映る。
ヘロドトスは、シモニデスのデータベースにアクセスしているようだ。
二人を繋いでいるワイヤーが微妙に振動している部分も映し出される。
3Dモニタを見ているだろう、全人類が我慢の限界に達した頃合いで、ヘロドトスが、
『参考になる事例が、古き星の図書館の記録の中に残っていた。情報を
ヘロドトスは、カメラのマイクに向かって、手の平を向ける。
そこからは、地球の言語で詩が流れた。
〜〜〜
古き星の、その深淵なる知識を示すなり。
スーパーフレアが一か所のみに降りかかる、その理は。
地殻の板が動きし場所の、オゾン層に穴を開けり。
熱スポットは移動し、その場所を固定せず。常に新たな地へと向かうなり。
スポットのエネルギーはオゾン層に穴を穿つなり。
恒星のスーパーフレアがオゾンの穴を通過し、地上に影響せしむ。
如何にせん、穴の位置を固定するには。
その答えは、地殻の変動を抑制し、プレートの移動を止めることなり。
〜〜〜
詩の朗読が終わって沈黙が流れる。
それを最初に破ったのは、司会の理だった。
倫子は、カメラを理に向ける。
「その詩の内容を地球に当てはめると、マントルの対流を止めて、プレート同士のぶつかりあいから発生するエネルギーを出さないようにして、さらにオゾン層の穴を塞げば良い、ということですか? 」
『おおむね、その理解で正しい』
ヘロドトスは何の感情もなく同意する。
ゆっくりと、その言葉の意味が地球人に理解されていく。
古き星のアンドロイドが与えてくれた、地球にとってトンデモない回答を、理は地球上の問題解決方法に変換して説明してしまった。
「理様、これ、リアルタイム中継なのですけど……」
倫子は、カメラを理からアンドロイドのヘロドトスに切り替える。
感情がないヘロドトスのアップが全世界の3Dモニタに映る。
表情がないはずの、その顔は、『本当の事を言って、何がマズいのだろう? 』と、不思議がっているようにも見えた。
古き星の知恵を地球に適用するのには、簡単ではなさそうだ。
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