1000文字未満のオカルト噺(1話完結)
卜森昭弥
顔がない
『彼女が浮気してたの詰めたらフラれた。俺いま顔ない』
ようやく実った五年の片想いを見事に散らした友人から、一ヶ月ぶりに連絡がきた。
週一回くる惚気報告がウザかったから、ザマァと思わなくもなかったが、実に憐れという気持ちの方が強くてこう返信した。
『ご愁傷様、骨はちゃんと拾って埋めてやる』
飲みの場でも開いて傷心を慰めてやろうと思った言葉への反応は無く、そのまま更に半月が経った。
山奥はやっぱり空気が澄んでいる。
人工的な香りより、やっぱりこういった自然の空気の方がよっぽど良い。
惚れた女の影響で初めて買った香水を、つけるのに難儀していた友人を思い出し、お前もそう思うだろうと心の中で同意を求めた。
「なあ、どこらへんにあんの?」
背後に投げ捨てるように置いた鞄へ話しかける。返ってこない反応に舌打ちして、また目についた辺りを掘り返しはじめた。
あんまり返信が無いものだから、訪ねていった友人の家で、友人の体に抱き付いていたクソ女。
自分が浮気してたくせに、別れ話を切り出されたのが許せなかったとか、自己中にも程がある。
重いのをせっかく連れてきたんだから、ちょっとくらいは役に立てよと、腹立ち紛れにシャベルを鞄に向かって投げた。
シャベルの立てたくぐもった音以外なにも聞こえず、盛大な溜息が出る。
まだ、時間がかかりそうだ。
一方的に結んでしまった約束を果たすには、あとどれくらいかかるだろうか。
家に待つ体を思い浮かべて、手のかかる奴だと、さっきとは違う溜息が出た。
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