アーティーくんとピートさん -『剣統院』の二人-
水野酒魚。
プロローグ
「どうした? ピーター。一体、何の用だ?」
夕闇の足音が、背の高い執務室の窓から
「……お話が、有ります。騎士団長」
硬い表情で返したのは、整った顔立ちの男。年の頃は四十を少し超えた位だろうか。
「俺に、話?」
思い当たる節がないのか、小首をかしげる騎士団長は、柔らかな巻き毛の黒い髪に
「はい。
思い詰めた様子のピーターに、騎士団長は背筋を伸ばした。
うつむき加減だったピーターは意を決するように、唇を
「……私は……この騎士団に入った頃から……ずっと貴方を……貴方のことを……お
途切れ途切れに、ようやく言葉をつないで、ピーターはそう言い切った。その言葉の意味を
「……貴方のことが……好き、でした……!」
──言ってしまった……。
ゆっくりと騎士団長は
「……すまない、ピーター。君の想いには応えられない」
柔らかなテノール。戸惑いを含んだ優しい声で告げられたのはそんな一言で。
「……はい」
解っていた。解っていたのだ。受け入れられる事なんて無い。だって、彼には……
「……俺には妻も子も居る。それは、君も知っているな?」
「……はい。貴方が、奥様を大切に想ってらっしゃる事も存じています。だから、好き、『でした』。……でも、どうしても、言っておきたかったんです。どうしようもなく、貴方が好きで、好きでたまらない、そんな私がいたことを知って欲しかった……」
知らないうちに涙が
「……そうか。解った」
騎士団長は、静かに
「……勝手なことを言ってしまって……申し訳ありません、騎士団長……」
「いや……君にそんなにも慕われて、俺は
困ったように、それでも騎士団長が微笑む気配がする。優しい人。
「……有り難う、ございます……あの……っその……っ失礼します……!!」
急に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます