青い海の中を揺蕩っているかのような、美しい文体。

冒頭でまず驚いたのが、流れるような文章の美しさです。

地の文は目の前の光景だけではなく、聴覚、触覚など五感にに訴えかける表現で、思わず主人公である湊人と感覚を共有しているかのような気持ちになります。
私個人はスキューバダイビング未経験者なのですが、まるで同じ体験をしているかのように感じる瞬間がありました。表現力だけでなく、確かな知識をもとに書かれているのが伝わってきます。

語彙も豊かでありながら、表現に凝るあまり冗長すぎるということもない。誰でも情景がスッと入るような読みやすさと柔らかさがあります。

漁師の夜の集会もリアリティを感じました。都会から離れた島の美しさだけではないのです。主人公の湊人は「まだ自分はよそ者の空気を纏っているのではないか」と不安になる描写があります。和やかで賑やかなはずの田舎の連帯感が、人同士のあたたかな繋がりのようにも、圧力にも、どちらにも映るのです。

物語は序盤ですが、紹介文の通り、颯太と涼介の複雑な関係性が示唆されます。どうやら昔に重大な事件があったようですが……これから明らかになっていくのでしょう。今後の展開に目が離せません。

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