変わる世界 変わらぬ男

テマキズシ

変わる世界 変わらぬ男


 2090年。人類はワープ装置を創り出すことに成功した。

 宇宙探索は例を見ない速度で進み、10年も経たないうちに人類は新たなステージへと歩を進めることになる。


 より遠くの星々を銀河を観測し、調査する。

 そしてとうとう人類は地球と同等の、人が住める星を見つけ出すことができた。


 ……ただ一つ違うことがあるとすれば、それは地球とその惑星の時間。その惑星の一日は地球の一年。

 人が住める可能性が高い以上調査する必要があるが、そこに調査をするのは死に等しい。

  だが例え無人のロボットで調査しても、一人はロボットの修復の為に惑星へと行かなければならない。


 ……誰かが行かなければ。


 未来をより良きものにする為には、過程はどうあれ犠牲は出るもの。

 一人の博士が手を挙げた。科学の発展の為に、人類の発展の為に、身を滅ぼす覚悟を決めたのだ。


 家族、友人、同僚。多くの人々から激励を受け、博士は惑星へと向かった。

 博士の覚悟を見た人々は博士のその行いに報いる為、今地球でできる研究に着手し、人類の発展に貢献する。



 ……そして博士は遠い時を経て、地球への帰還に成功。

 世界は博士を英雄と称賛し、崇めた。


 彼にとっては20日の出来事。だが地球では20年もの時が経っている。

 博士は最初、20年の歳月による違いに困っていた。だが次第に慣れ、再び惑星の調査へと向かう。


 今度も一人で、地球を旅立つ。


 20数年の間に進化した新たなロケットに乗り、博士は惑星へと向かう。

 今度は前以上に地球は変わっていることだろう。前よりも時が経つのが早い惑星。もしかしたら100年は超えるかもしれない。


 いや、宇宙では何が起こるか分からない。

 道中や調査で事故に遭い死んでしまう可能性も十分にあった。

 

 博士は溜息をつき、地球を眺める。

 その様子を見ていた宇宙船のAIは、博士に問うた。


「星間ワープまで時間があります。質問をしてもよろしいでしょうか」


「……? 今はAIも質問をする時代なのかい? いいよ。何でも聞いてくれ」


 博士はAIが質問という事実に驚くが、持ち前の頭脳を駆使しすぐに動揺を抑える。


「なぜ、この探索を希望したのですか? 貴方には名誉も、地位も、資産もあります。知識欲にしては、貴方は少し…人間的すぎます」


「…………最近のAIは本当に凄いな。それはね、私みたいになって欲しくないからだよ」


「……私みたいに、とは?」


 博士は懐かしむような目で地球を見る。

 そして静かに、AIに返答した。


「20年の時が過ぎた。知っている場所も、常識も、変わった。…弟は年上に、同僚の大半は死んだ」


 そう言うと博士は一枚の写真を取り出す。

 今はもう存在しない紙の写真。ずっと持ってるのかボロボロだ。


「……皆はこれを栄誉というが、それは違う。これは人柱だ。誰もそのことに気づいてないがね」


 博士はそう言うと椅子に座り、軽く目を瞑る。

 その様子はまるで疲れた子ども。

 時代に取り残された、哀れな存在。


「なら、私が共にいましょう」


「…………え?」


 AIは機械的に、だが何故か優しく感じる声色で、博士に話す。


「私は変わらずここに居ます。貴方が死ぬ、その時まで」


「……………………そうか」


 宇宙船を光が包む。新たな惑星へ向けて、ワープが始まった。

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