頭がチカチカする

ようすけ

第1話



 神社での生活も佳境を迎えた。正直な所を言えば、飽きていた。

 もっと手頃の住処は無いかとも考えたが、すぐ近くに人参の食べられる畑があったのでその場所から離れるのは心苦しかった。

 アパートに住むのは考えものだ。これまでの人生で二度、アパートに住んだことがあるのだったが、人間関係には苦しめられていた。

 人間と接点を持たない僻地での生活を渇望してはいたが、まさかドングリなどの樹の実を食べる訳にはいかない。

 結局は誰かが育てた菜園の近くがベストだった。


 ある日、道で天体望遠鏡を見つけ、太陽を覗いてみた。

 すぐに目がチカチカとさせられ、脳天に稲妻が走ったような気がした。以前にこれも道で拾ったものではあるが、他人の健康保険証を見つけて自分のものにしていたので、近くにある心療内科の医院へと出かけた。

 敷地内に人参とキャベツが植えられているのを見かけ、これは良い医院だと思った。

 医院は、自分の家を改造したかのような造りで、多少の気まずさを感じた。

 受付で他人の健康保険証を出した。

「目がチカチカするんですけど」

「どういった症状ですか?」と聞かれた。

「目がチカチカするんですけど」

 受付で、必要事項を記入した。あとは待つだけだった。


 何分後かに、わたしは自分の名前が呼ばれたことに気がついた。わたしの本当の名前は小林了明なのだが、医院で呼ばれていた名前は高橋美次というものだった。

 ここで慌てたら全てがパアになる。

 別に公文書偽造とか取得物横領罪とかで告訴されたとしても、現実味のないフワフワとした生活を送っていたわたしに取って、それは問題ではなかった。

 ただ、チカチカとしている目だけが心配だった。

 わたしは立ち上がった。案内された間口をくぐった。

 するとそこには眼鏡を掛けた白衣の男が、なんとも言えない表情で座っていた。

 挨拶を済ませ、わたしも男の向かいの椅子に腰を下ろした。

「今日はどうされましたか」

「目がチカチカするんですけど」

「それはどうしてですか?」

 わたしは暴れそうになった。それを究明するのが医者の仕事だからだ。

 だが成人して何年も経ったわたしの性格は、成人前よりも穏やかになっていた。目がチカチカとする原因と言えそうなものを列挙した。

「まず道に落ちている天体望遠鏡で太陽を見ました」

「天体望遠鏡で太陽を見たの?」

「それから最近は栄養のあるものをあまり食べていません」

 話を聞きながら、医者はノートにビル群のイラストを描いていた。

「ぼくは死ぬんですか?」

「大丈夫ですよ、あなたは死にません」

 診察が終わって、次は支払いを待つ番だった。

 保険証が人質に取られていたので、逃げる訳にもいかない。

 とうとう自分の名前が呼ばれた時には、時刻は午後の五時を回っていた。受付の女性は不満そうだ。わたしはまた自分の名前に気がつけなかったのだ。

「今回の診療では所見以上無しとなっております」

「何円ですか?」

「八千円です」

 わたしは健康保険証を受け取った。それから走って逃げた。


 

 

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頭がチカチカする ようすけ @taiyou0209

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