第51話 とあるヤンデレたちの日記

 ノートを捲るとそこには以前見た物ではない内容が広がっていた。

 確かにそこには重たい想いが綴られていることには変わりない。

 ただ、そこには一人だけのものではなく、複数人からの、それも内容も日記形式になっている物だった。


 ◇


【202×年4月7日】


 今日から日記をつけようと思う。

 私も小学六年生だ。

 まだまだヒーローにはなれそうにない。


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 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き大好き。


 ◇



【202◯年4月7日】

 中学生になったから今日から日記を付けようと思う。

 新しい友達出来るといいな。


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 待っててね。絶対に会いにいくから。絶対の絶対の絶対に。


 今日もハンカチを使った。


 ◇


「こ、これは……?」


 どこかで見聞きした内容に冷や汗が出てきた。

 数ページの空白を跨ぎ、綴られた日記。

 おそらくではあるが、内容からしてそれぞれの異なる人物の日記だ。


 一人目は小学校の時に助けてもらった人物への重たい想いが綴られた物。それと同時に幼馴染に対する激しい恨み。


 二人目は助けてもらった恩人に対する並々ならぬ感情。そして恩人を騙っている可能性がある人物への過激な思い。


 どちらに関しても俺の記憶が確かなら、覚えがある。

 いや、正確に言えば思い出したと言っていいだろうか。


 小学生の頃の記憶なんて朧げだ。

 ただ、他のクラスの子をいじめてると自慢げに話していたソイツに腹が立って、ケンカを挑んだことがあった。

 その子が二度といじめられないようにするために。


 中学生の頃は……そう、あのゴールデンウィークの日だ。

 思い出さないようにしていた記憶。

 あの日、失恋した俺は……無我夢中であの場所から逃げ出した。その先で偶然困っている子がいて……ハンカチを渡した記憶がある。

 あの子からもらったハンカチを。あの時は投げやりに渡したものだったが、後で深く後悔したものでもあった。


「まさか……この二人って……?」


 未だにそれが信じられずに困惑する。

 今さっき聞いた話と違う。

 それ以上に昔からの……積みあげられた幾十もの想いが折り重なったような。真っ直ぐで一途でいきすぎた重たい感情。


 心臓がバクバクと悲鳴をあげている。

 だけど、この感情をどう表現していいか分からない。

 嬉しいのか、怖いのか、困惑なのか。そのどれもが正解であり、だからこそ混乱に陥っている。


「と、とりあえず、まだ続きがあるのか……」


 人の想いが綴られたものを読むことには気が進まない。

 だけど、もうそうは言っていられない。


 申し訳なく思いながらも俺は続きのページに手をかけた。

 おそらく……それが彼女の物であると想像しながら。


 ◇


【202◯年4月6日】

 今日から中学生。

 これも節目ということで日記をつけることにした。


 小学校の時は大変だった。

 この目立つ見た目のせいでいっぱい苦労した。

 できるだけひっそりと過ごしたい。

 だからウィッグとメガネでできるだけ地味になるようにしたら、誰にも話しかけられなかった。

 引っ越してから、校区も変わったし、きっと私だと知っている人はいないだろう。


【202◯年5月11日】

 1ヶ月過ぎたけど、友達はいない。少しだけ寂しいけど仕方ない。

 いい場所を見つけた。図書室。

 そこだったら静かに読書をしていられる。


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【202△年4月16日】

 中学生になって一年経ったけど、相変わらず一人。

 でも慣れてしまえば、それも少し心地いい。

 最近は、小説以外にも本を読んでいる。

 哲学とか倫理学とか。内容は難しいけど、結構面白い。


【202△年5月14日】

 なんか図書室で話しかけられた。

 私が読んでた本が珍しくて面白かったんだって。倫理の本。確かにこんなの読んでたらおかしいよね。

 めっちゃ陽キャっぽい。ちょい苦手。


【202△年6月27日】

 あれからずっと図書室で会うと毎回話しかけられる様になった。

 なんで私みたいな地味なやつに話しかけるのか不思議だ。

 もしかしてバレた? それはないか。


【202△年7月21日】

 夏休みに入った。

 あの人は部活で忙しいらしい。クラスメイトたちが話していたのを盗み聞きしたら、かなりの実力者らしい。すごい。

 暑いけど、倒れないか心配。


【202△年8月14日】

 お盆だったのに会えてびっくりした。

 ちょっとカフェでおしゃべりした。

 本をお薦めしたら、読んでくれるらしい。


【202△年8月25日】

 ようやく2学期。 昼休みのいつもの時間。また彼が来てくれた。夏休みであったこと少し話すことができた。

 後、お薦めした小説も読んでくれたらしい。嬉しい。


【202△年10月22日】

 気づけば目で追うようになってた。

 これがどういうことなのか。いろんな小説を読んできたからなんとなくは分かるつもり。

 だけど……まだ、あんまり実感はない。


【202⬜︎年1月8日】

 新年のあいさつできた。

 今年は彼ともっといい仲になれるといいな。

 連絡先聞かれたけど、スマホ持ってないし教えれなかった。

 貧乏だし、仕方ない。


【202⬜︎年2月14日】

 チョコ渡せなかった。他の人からたくさんもらってたから、どうせ私のなんていらないだろうし。

 ……でもなんか悔しい。


【202⬜︎年2月17日】

 迷ったけど、やっぱり渡すことにした。

 チョコはもう遅いから、ハンカチ。頑張ってお金をどうにかかき集めて買った。 気に入ってくれるといいな。


【202⬜︎年2月25日】

 初めて家にいった。 彼の匂いがする。彼の私物がある。

 いけないことをしてしまった。


【202⬜︎年3月14日】

 お返しをもらった。手作りのチョコらしい。勿体無くて食べられないので腐らない様に保管しておく。

 最近、家に彼の捨てたものが増え過ぎている。

 またいけないことをしてしまった。


【202⬜︎年4月12日】

 中三になってから、もっと苦しく感じる様になった。自分の気持ちを伝えたいけれど、言ったら何かが壊れてしまいそうで。

 自分が姿を偽っていると知ったら、軽蔑するかな。 彼なら受け入れてくれる気がする。

 でも……今はまだ、この関係に甘えていたい。


【202⬜︎年4月14日】

 最悪だ。本当に最悪。

 なんでこんな家に生まれたんだろう。

 こんな家に生まれなければ、きっと彼とも……。

 父親も母親も嫌い。


【202⬜︎年4月15日】

 このままじゃ彼と会うことはおろか、学校へ行くのも難しくなるかもしれない。 彼に家のことを打ち明けるか迷った。でも話せなかった。


【202⬜︎年4月18日】

 他校の男子に絡まれたところを助けてもらった。

 話を聞けば、同じ学校で彼と同じ部活らしい。

 ちょっと馴れ馴れしい気がしたけど、彼の親友とのことで相談に乗ってもらうことにした。


【202⬜︎年4月24日】

 あの男子……進藤とか言ったっけ?に相談をよく乗ってもらっている。

 彼はあんまり私みたいな地味な子がタイプではないそうだ。少し落ち込んだ。

 やっぱり本当の自分を見せるべきだろうか。

 しかし、相変わらず馴れ馴れしい。


【202⬜︎年4月26日】

 最近、会うと何かを聞きたそうにしている。

 誤魔化されたけど……なんだろう。気になる。


【202⬜︎年5月2日】

 本当に最悪だ。なんでこんなことに。

 せめて、多分明日が最後。その日くらいは彼に会って事情を話したい。


【202⬜︎年5月3日】

 気持ちの整理がつくのに時間がかかり過ぎた。

 もう5ヶ月も経ってしまったけど、一応その日の出来事を思い出して書いておく。



 彼に会えなかった。

 部活終わりの時間を狙っていたけど、告白された女子とそのまま付き合って帰ったらしい。

 偶然、会った進藤からその話を聞いた時、涙が止まらなかった。

 そのせいで急に進藤が慰めようとしたのか抱きついてきたのに、反応が遅れてしまった。

 気持ち悪すぎて突き飛ばした。




 ……私の恋はここで終わった。

 さようなら、ゆうちゃん。








 ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。ゆうちゃん。


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【202⬜︎年10月3日】

 真実を偶然知った。

 こんなので。こんなことで私は。








 邪魔した全部を壊してやる。呪ってやる。

 家族もあのクズも。全部。何もかも。


 ……ゆうちゃん待っててね。



















 続きは、教えてあげるから。

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