第13話 瀬名さんの好きな人
昼休み。
友達の一真と一緒に昼を食べる約束をしていた。どうせまた目の前でいちゃつきを見せつけられるのだろうと、ゲンナリしながら席を立つと声をかけられた。
「汐見くん。一緒にお昼食べない?」
振り返れば、そこにいたのは瀬名さん。
イマイチ状況を飲み込むことができず、周りを確認し、俺は確認の意を込めて自分を指差した。
「うん。汐見くんだよ」
ニコニコと屈託のない笑顔を浮かべる彼女。それに対し、クラスメイトも少しどよめいている。
それも当然だ。今朝、一緒に登校したのみならずお昼まで、進藤ではなく俺を誘った。
そのことが周囲に動揺を与えている。
ちなみに俺も動揺している。
「ちょ、ちょっと待ってよ。美月!」
そこへ慌ててやってきたのは、進藤だ。
進藤は、俺を一瞥すると瀬名さんに問い詰めるように向かい合う。
「そ、そのお弁当って僕のだよね?」
「……違うよ? ほら、いつもと入れ物も違うでしょ?」
「な、なんで!? いつも作ってくれてたでしょ?」
「でも今日は新に作ってないよ」
「……ッ。な、なんで汐見なんかと一緒にお昼食べるんだよ! いつもみたいに僕たちと一緒に食べればいいだろ?」
「なんでって……それは、相談があるからだよ。ねっ、汐見くん」
「え? ああ」
相談とは進藤とのことだろうか。
それくらいしか思い当たらないが、とりあえず合わせて頷いておく。
「相談なら僕にすればいいだろ? なんで汐見なんだよ!」
「それは新のこととか? 相談したいからだよ。もう! 言わせないでよ、恥ずかしい!」
「……!」
瀬名さんは恥ずかしそうに顔を逸らす。
するとそれを見た進藤はさっきまでの焦りが嘘のように満足そうな顔をした。
「そ、そうか。なら、仕方ないな。じゃあ、今日は汐見と食べてきなよ」
進藤は俺をまた見て、勝ち誇ったような顔をして、戻っていった。
「じゃ、行こっか!」
「お、おお……」
進藤の背中を見送った後、瀬名さんはすぐに満面の笑みを浮かべ言った。
……今、進藤を見る目が……恐ろしく冷たかったような気がするのは気のせい?
若干の疑問を抱えたまま、俺と瀬名さんは教室を後にした。
◆
「なぁ、これどういうことだよ?」
「俺にもわからん」
場所は変わって中庭。
春の日差しが暖かい中、ここで昼食を取る生徒は多い。
結構、カップルが多い気がする。いつもは、そのカップルとプラス一人で食べさせられている俺はどんな風に見られているのだろうか。悲しい。
だが、今はそのカップルプラス男女の一組。人によっては仲の良いカップル同士が一緒にご飯を食べているように見えるだろう。
瀬名さんに感謝。
それはさておき、急遽一緒にお昼を食べることになった瀬名さんに一真は驚きを隠せない様子。
一方の神田は、あっさりと受け入れ、二人で話に花を咲かせている。
一真は目の前でおしゃべりをする二人の少女を見て、俺に耳打ちする。
「瀬名さんって確かあの、進藤の幼なじみで進藤が大好きなんだよな? なんでここにいるんだ」
「俺もわからん」
「実は前から汐見くんに相談に乗ってもらってるの。今日もその相談に乗ってもらおうと思って誘ったの」
「「っ!?」」
ヒソヒソと話していたのにも関わらず、その答えをすぐに瀬名さんから言われたことにより、動揺する俺と一真。
地獄耳ってレベルじゃない。しかも、さっきまで神田との話に集中してたよな?
「相談? 相談ってなんの相談なの?」
「ちょっと……好きな人にどうアプローチすればいいか、かな」
「……」
瀬名さんは恥ずかしそうにチラチラとこちらを見ている。
一体そこにどういう意図が含まれているか、理解できず首を傾げる。
具体的な名前を出すのは恥ずかしいからやめてほしいということだろうか。
……って言っても周知の事実みたいなものだけどな。もしかして瀬名さんは周りが知っていることを気がついていないとか?
「えー! そんな相談してたんだ!!」
「好きな人ってあれだよな。進藤のことだよな?」
「あっ」
そう思っていた矢先。
一真がハッキリとその名前を出した。俺は慌てて瀬名さんの方を見る。
そこには好きな人を知られて恥ずかしがる瀬名さんが……いなかった。
そこいたのは、目のハイライトが消えた無表情の瀬名さん。
……どういう感情?
「あ、あれ? ち、違った?」
「もう一真! デリカシーないんだから!」
「あでっ!」
その反応には流石の一真も焦る。神田もその様子を見て、異常を察知したのか、一真を嗜める。
「アハハ、ドウカナー」
なんかカタコトに聞こえるのは気のせい?
「えっと、瀬名さん? 大丈夫か?」
「うん! 大丈夫だよ! 汐見くんにせっかく相談乗ってもらってるのに、私がドジしてるせいでうまくいかないことが悲しくなっちゃっただけだから!」
「そうだったんだ。ごめんね、瀬名さん。一真がデリカシーなくて。進藤君のことで困ってることあったら私も相談乗るから」
「ううん。気にしないで。ありがとう!」
二人は、今日が初めてのはずだが関係性はよく見える。さすが神田だ。
「それで、今日は何に悩んでるんだ? 二人の前で話し辛かったらまた今度でもいいけど」
「……そうさせてもらおうかな」
相談のつもりでお昼に誘ってくれたのに、なんだか申し訳ないことをした。
まぁ、元々一真たちと約束があったのでそれでもいいと言ったのは、瀬名さんではあるが。
「新なんかのことよりも汐見くん! そのお弁当どうかな?」
急に話題を切り替えられ、焦りながらも手元の弁当箱に目を落とす。
瀬名さんがお礼と称して、作ってきてくれた2段式のお弁当。
一見、野菜や色取りのバランスが取れた弁当だが、ご飯の上にやたら滅多とちくわの磯辺揚げが敷き詰められている。これでもかというくらいに敷き詰められている。
……どういうこと?
「ねぇ、どう!? この前美味しいって言っていたちくわの磯辺揚げいっぱい入れてみたんだ!」
「美味しいよ。ありがとう」
「よかった!」
眩しいくらいの笑顔を浮かべる彼女。
その感想に嘘はない。今まで食べた中で一番と言えるくらいには美味しい。
しかし、おかしい。彼女の前でちくわの磯辺揚げを食べた記憶なんてないんだが?
一体いつのことを言っているんだ?
確かには好きは好きだが、大好物と言われるとそれほどでもない。
「えっと、ちなみにいつ瀬名さんの前でちくわの磯辺揚げ美味しいって言ってたったけ?」
「ええ〜、そんなの言えないよ……」
そこ顔を赤らめるとこなの?
全然わかんない。
「あ、よかったら食べさせてあげよっか? あーんしてほしい?」
「いや、今はいいよ」
「えー、残念!」
流石に二人のいる前で『あーん』とかできるわけがない。
結局、その後も相談は一切なく、ただみんなで昼食を食べただけとなった。
「ちくわの磯辺揚げってあれじゃね? この前、食堂でうどん食った時に一緒に頼んでたやつ。うまいって言ってたじゃん」
「確かに言ったけど……」
それ二週間前。
しかも瀬名さんとはまだ仲良くなってなかったんだけど。
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