吉田の弱点
ようすけ
第1話
行きつけの喫茶店で、吉田と賭けをした。
まずは吉田が店員の女の子に電話番号を聞くのだが、多分ですぐに教えてくれることだろう。というのも吉田は、界隈では名前の知られた暴走族に加入していて、喧嘩が強いことでも有名だった。
「こんな賭けはつまらないよ、了明」
「でもまだ教えてもらえるとは限らないよ」
「おれは花形ミクの電話番号もゲットしたんだぜ」
「あいつは誰でも良かったんだ」
吉田が自分のスマートフォンを取り出し、花形ミクとのやり取りを見せてくれた。
見慣れたラインの画面ではない。花形ミクは吉田の写真をライン画面の背景にしていて、吉田も花形ミクの写真をライン画面の背景にしていた。
「おれは別にその気ではないんだけれども、おれたちは結婚の約束までしているんだよ」
「だったら婚約者ということ?」
「おれは遊びだけどな」
店員の女の子が注文を取りにきた。
「アイスミルク」
「アイスミルク」
店員の女の子はまだ初心な感じだった。吉田のことを好むような女の子ではない。
だからこそ、わたしには勝機があるような気がしていた。
「早く聞けよ、吉田」
「タイミングというものがあるんだよ、了明」
「おれのことを童貞だって馬鹿にしているのか?」
「童貞なのか?」
「違うよ、やりまくりさ」
店員の女の子が、今度はアイスミルクを二つ持ってきた。
わたしたちは黙って、店員の女の子がそれぞれの目の前にアイスミルクを置くのを見ていた。吉田がいつ電話番号を聞くのかと待っていたが、ここでも吉田は電話番号を聞かなかった。
「おれは童貞だけどよ、今のタイミングで聞かなかったらいつ聞くんだよ」
「黙れよ、了明。待ってなって」
わたしは待った。
だがとうとう吉田は店員の女の子に電話番号を聞かなかった。
そのことを、わたしは吉田が所属している暴走チームの集会に参加して暴露した。
神社の境内に集まって、暴走族たちが何やら暴れる計画をしているようだ。そこへ吉田の秘密を知っているわたしの登場だった。
暴走チームの面々は、これからオートバイに乗るのでさすがにオロナミンCで乾杯をしている。アルコールは判断を鈍らせ、一瞬の隙が事故に繋がるからだ。
「あんたらの知らない吉田の一面をこれから教えてやる」
「誰だよ、てめえ」
「死ね」
「くんなよこっち」
わたしは勝ち誇っていた。喧嘩が強いことで有名な吉田が、喫茶店に入れば女の子に電話番号を聞くことすらできないのだ。
「吉田のことだけど」
「誰だよ」
「吉田!」と集まっていた男の一人が言った。
いよいよ吉田が呼ばれるのだと思っていたわたしは驚愕した。
待っていても、わたしの知っている吉田は現れずに、わたしの知らない大男の吉田が現れたのだ。喧嘩も強そうだった。
「吉田、こいつがお前の知られざる一面を教えてくれるんだってよ」
「誰こいつ」
「お前の知らない一面を知っている男だよ」
「おれでさえ知らないおれの一面をどうしてお前が知っているんだよ」
わたしは言った。
「吉田、お前は喫茶店で初心な女の子に電話番号も聞けなかったな!」
「どうして知っているんだ」と吉田が目をドギマギとさせた。
わたしとしても破れかぶれの一撃を放ったつもりではあったが、なんとこの吉田も、過去に喫茶店で女の子の番号を聞こうとして聞けなかったことがあるのだ。
「てめえ、おれを監視しているのか?」
「どんな女の子だよ、吉田」
「そうだよ、お前は奥手なんだからそういったことはおれたちに任せればいいんだ」
「こいつ殺してやる」
吉田の大きな手がわたしに伸びている。
その時だった。草葉の陰からわたしの知っている方の吉田が現れた。
「こいつに手を出すのはやめろ、こいつは馬鹿なんだ」
「ああ、吉田か」
わたしの知っている吉田が、わたしの代わりに説明をした。
集まった暴走チームの面々は、これから暴れる計画をしていたというのに、その話に夢中になっていた。
「それでどうするんだよ、吉田」
「そうだよ、このまま引き下がるのかよ」
「まさか!」と吉田が驚いたような表情をした。
「そのまさかだよ、吉田。今からいってタコ殴りにしてこよう」
「どうしてさ」
「ただ暇だからだよ」
「暴れる計画は?」
「ほっとけよ、女の子のことなんか」
「ほっとけるかよ、チームがナメられているんだぞ」
「そうだ」
「そうだ」
集会の熱気はすごかった。暴走集団たちは、吉田が電話番号を聞きそこねた女の子が働いている喫茶店の場所を吉田から聞き、報復にその女の子をタコ殴りにするということで意見が一致していた。
集まった連中がオートバイにまたがる。それから走り去った。
わたしはただ見ているしかなかった。
吉田の弱点 ようすけ @taiyou0209
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