憂鬱な春

あの頃、1人の男と女として永遠の愛を誓った。

ずっと「異性」として相手を見て、求め合う生活になるんだと思った。

でもそんな日はあっという間に終わり、私は彼の日常に溶け込んでしまったようだ。

結婚から5年。

子供はいない。今もこれからも。

ずっと。

平日は近所の歯医者で受付のパートをしている。

5時間だけ。

16時には買い物を済ませて家に帰る。

同じ建物が何棟も並んでおり、その一棟の3階の真ん中あたりに住まいがある。

夕立が降りそうで慌てて洗濯物を取り込んだ。

結婚した時に揃えたタオルはもうくたびれている。

ベランダに出ると雨が降りそうな匂いと、公園で遊ぶ子供たちの声に包まれる。

自分の子供を見つけた母親が「雨の前に帰りなさい」と呼んでいる。

私はそれを眺めてタバコを吸う。

タバコは夫も知っているけど、夫の前では吸わない。ここのベランダだけ。

夫は何時に帰るかわからない。

その間別に急ぐこともなく暇してる。