第4話 騒ぎと招待状

 「こ、こんちはー」


 翌日の昼。

 アルタはとある酒場に顔を出した。

 その中で、席に座っていた者が手を挙げる。


「アルタ、こっち」

「お、おう」


 リゼリアだ。

 昨日の事もあり、アルタはリゼリアにお呼ばれしていた。

 アルタはリゼリアの元に向かいながらも、周りを見渡す。


「…………」


 店内はリゼリア以外に人がいなく、がらーんとしている。

 昼間とはいえ、少し心配になるほどだ。

 席についたアルタは、こそっとリゼリアに声をかけた。

 

「全然人がいないけど、大丈夫なのかな……」

「さあ。分からないけど都合が良い」

「まあ確かに」


 アルタの心配は他所よそに、店主は無言でコップをいている。

 客足は気にしていないみたいだ。

 だが、実はこれには理由がある。

 

(本当は私が貸し切ったんだけど……!)


 リゼリアは二人で話をするためだけに店を貸し切っていた。

 しっかり相場の倍額を払って。

 さすがは英雄の懐だ。


「で、なんの話?」

「うん。まずは首都が今どうなっているか知ってる?」

「……あぁ、なんとなく」


 苦笑いを浮かべるアルタに、リゼリアは新聞を取り出す。

 そこには大きくアルタが取り上げられていた。


『新たなる英雄の誕生か!?』

『階層ボスを討伐した謎の少年』

『学生を救ったのは正体不明の浮遊少年』


 いくつもの記事と共に、アルタに似たイラストが載っている。

 救出した学生などから特徴を聞いたのだろう。

 しかし、一ページだけ切り抜かれていた。


「ん、ここは?」

「……! あ、あれ!? どうしたんだろう! 印刷ミスかな!?」

「いいけどさ」


 リゼリアは分かりやすくあわてふためく。

 クールな雰囲気は一瞬で消え失せている。

 だが、アルタはどうせ似たような内容だろうと追及しない。


 ちなみに、ここには『英雄リゼリアとダンジョンデートか!?』という記事があった。

 今は彼女の部屋の“アルタ㊙ノート”に保管してある。


 アルタはパラパラっとめくり終えると、ふうと一息つく。


「英雄なんて大げさな……」

「そんなことない。アルタならすぐに呼ばれるようになる」

「すぐって、なんか基準でもあるの?」

「そっか。知らないんだ」


 首を傾げたアルタに、リゼリアが答えてくれる。


「英雄というのは、第三層を攻略した者に授けられる称号」

「あ~なるほど」


 英雄の定義はひとつ──“第三層の攻略”だ。

 世界でも数える程しかいないこの偉業を達成して、人は英雄と呼ばれる。

 その内の一人がリゼリアだと言うのだから、アルタは驚くばかり。


 すると、リゼリアはふっと笑みを浮かべた。


「それもアルタのおかげだけど」

「え?」

「だって──あ、やっぱりこの話は今度」

「う、うん」


 しかし、詳細には話してくれない。

 

(あの話をするにはまだ早いかも。混乱させてしまいそうだし)


 リゼリアにも意図があるらしい。

 隠し事というより、アルタを気遣ってのことだろう。

 ならばと、アルタは話題を変える。


「そういえば、リゼリアはパーティーとか組んでないの?」

「今はね。というか、今日はその話をしたかったの」


 すると、リゼリアはアルタへ手を伸ばした。


「このまま、しばらく私と組もう」

「また!? けど、お金はもらったし……」


 ワイバーンの件の後、アルタはリゼリアから報酬をもらっている。

 昨日の探索は予行のつもりだったが、成果が得られたからとのこと。

 それでも、リゼリアは構わないようだ。


「報酬は再度支払う。なんならどれだけでもみついで──」

「いやいや、さすがにもう受け取れないよ!」


 アルタは両手に振りながらも聞き返す。


「でも、どうして?」

「今のアルタは、新人なのに実力も話題性もある。だから、たくさんの勧誘があると思う。変な虫──じゃなくて、変な人が寄ってこないように」

「う、うーん……」


 しかし、アルタは悩むように天井を見上げる。

 すると、リゼリアはむっと目を細めた。


「迷ってることでもあるの?」

「……!?」


 それを皮切りに、リゼリアは机に体を乗り出す。


「私がいれば衣食住は好きにして良いし、いつでも駆け付けるし、酒場はいつでも貸し切り──いや、とにかくアルタの苦労はさせないのに」

「わかった、わかったから落ち着いて!」


 若干光を失った目で迫るリゼリアに、アルタは気圧けおされる。

 少し怖いぐらいのアルタへの執着だ。

 よほどアルタへの想いが強いらしい。


 だが、アルタにも事情はあるようだ。


「迷ってるというか、なんか招待状が届いてさ」

「招待状!?」

「うわっ!」


 その言葉に反応して、リゼリアはいよいよ飛びついてくる。

 キッと視線を鋭くさせたリゼリアは、勢いのまま尋ねた。


「どこ! なんの!? 女!?」

「えと、差出人は書いてないんだけど」

「これは……!」


 アルタが招待状を見せると、リゼリアは目を見開く。

 封筒に刻まれた印に見覚えがあったようだ。


(と、都立アカデミー!)


 都立アカデミーからの招待状だ。

 アルタの言う通り、差出人は不明。

 しかし、確かめるまでもなくリゼリアはこれを書いた人物が分かる。


(あの小娘ぇ……!)


 リゼリアは般若はんにゃのような顔を浮かばせた──。





 その頃、都立アカデミーのとある大部屋。


「届いてるかなあ、招待状」


 一人の少女は机に頬杖をついている。

 ふんふんと鼻歌混じりに笑みを浮かべ、機嫌が良さそうに見える。

 

「リゼリア、君にだけ抜け駆けはさせないよ」

 

 少女はリゼリアの知り合いのようだ。

 そしてアルタとも。


「久しぶりに会えるね、アル君・・・

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