ラムネの瓶をお前の頭で叩き割り、あたしはビー玉を手に入れる

笹 慎 / 唐茄子かぼちゃ

***

 ズコズコ。タピオカをすする。太いストローで。


 甘いタピオカミルクティー。甘すぎる。クリームもトッピングした。ズコズコ。甘い。カロリーは見ない。見たっていいことはない。


 知らない方が良いことがたくさんある。このタピオカミルクティーのカロリーもその一つ。ズコズコ。


「オレ、悪い彼氏だよな」


 流行ってるから飲んでるのか。ズコズコ。学校帰りに寄ろうと誘われたら、断りはしない。でも果たして本当に好きで飲んでいるのか。ズコズコ。


 プラスチックのカップから水滴が制服のスカートへ落ちた。ちょうど太ももとの県境に。でも太ももは濡れなかった。職人的絶妙な丈なので。代わりにウエストで折ったスカートのせいでお腹は苦しい。


「でもこれからもっと受験勉強も忙しくなるし、日茉莉ひまりにはもっと良い男がいるかもしれないし」


 あたしは今唐突にラムネが飲みたくなった。タピオカミルクティーには正直胸焼けがする。


 どうせならレトロな瓶のラムネが良い。ズコズコ。


 瓶のラムネってどこで売ってるんだろう。スマホの検索バーに「ラムネ 瓶 売ってる店」とフリックした。ズコズコ。


「LINEも電話も。スマホ触ってると親がうるさいんだ。だから返事も難しいし。この前の模試の結果も良くなかったし」


 瓶のラムネはすぐそこのドンキで売っているらしい。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。タピオカミルクティーは断末魔の悲鳴をあげた。あたしはストローから唇を離す。


 空になったカップをテーブルに置くと、立ち上がった。


 あたしは別れたいくせに自分は悪者になりたくない男を見下ろした。


 やたら明るい紺色の学ラン。まだ暑いのに学ランを着ている。それは有名な進学校の制服。


 思い返せば、会う時はいつも学ランを着ていた。六月に出会い、いま九月。こいつはいつも学ランを着ていた。やたら明るい紺色の。


 元彼氏か。現在進行形の彼氏か。ゆらぐ。今カレと元カレの間を彷徨う男子高校生。見下ろす。


 今あたしの観測によって確定する。今カレか元カレか。ゆらぎの時は終わった。


 なぜならタピオカミルクティーはもう飲み終わったのだから。


「わかった」


 どうとでも取れる言葉を投げつける。迷うがいい。ゆらぐ言葉。お前の観測では、今カノか元カノかは確定できない。


 これよりドンキにて瓶ラムネを入手し、飲み干したのち、この卑怯者の頭でラムネの瓶を叩き割り、あたしはビー玉を手に入れるのだ。


 透き通って美しい翠色のあのビー玉を。


 シュワシュワ。カラン。

 

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ラムネの瓶をお前の頭で叩き割り、あたしはビー玉を手に入れる 笹 慎 / 唐茄子かぼちゃ @sasa_makoto_2022

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