第21話 ペースを乱される

「そう警戒しないでよい。今日のことは朕個人のことだ」

「ならば軍服でも良かったのではないでしょうか」

「駄目だよ。バレバレじゃん」

「いや、あの、ええっと」

 駄目だ。

 昔から駄目なのだ。この可愛い少女の会話のペースを掴むのは、非常に面倒臭いし難しい。

「南夏家に寄ったから一緒だと言いたいのだろうが、それは別だ。お主が南夏家と切れていないことを、敵に知らせるのは有効であろう」

「ええっと、まあ、はあ」

 なんと、彼女はしっかり姫神教会のことを掴んでいるようだ。しかも、俺にだけ不思議な現象が起こったことを掴んでいる。相変わらず、王家の諜報員は優秀なようだ。一体軍部の誰が彼女に教えているのか。まったく解らない。

「もう、相変わらずだなあ。普段は誰に対しても素っ気なく、また、必要とあらば立て板に水のごとく喋る聖夜らしくない。どうして朕の前だけ、そう借りてきた猫のようになるのだ。それでは将来、南夏家を背負って立つ時に困るぞ。朕に意見を述べることも、南夏家には必要なスキルなんだからな」

「……」

 だから一体どこでその情報を得ているんだ。

 俺は許されるんだったら頭を抱えたい気分だ。しかし、ここは御前。そんな態度が許されるわけない。ついでに言えば、貴明に対するような態度も、萌音に対するような態度も許されるわけがない!

「まあいいわ。呼び出したのは他でもない。その姫神教会についてだ」

 帝は一通りからかって一人納得したようで、そう話題を切り替えてくれる。

 おい、俺の気分を乱した責任を取れ。

 そう言いたいが、もちろん言えないので

「主上もご存じでしたか。御見それしました」

 と適当なことを言って濁しておく。

「心にもないことを言う。どうせ知らぬと踏んでいただろうに」

「……」

 よく解っていらっしゃる。

 と言ってやりたいが、もちろん言えない。俺は脇の下に汗が溜まるのを感じつつ、無言を貫く。墓穴を掘ってなるものか。

「それはそうとして、姫神教会が今まで捨て置かれた理由は、どうせ呪術など出来ぬだろうと思われていたからだ」

「えっ」

 俺はつい、素のままに訊き返してしまう。すると、帝はにやりと笑う。

「知らなかったであろう。まあ、普通は使えるレベルにまで呪術を高めることは出来ない。一般人には霊感があるレベルで終わるものだからな。ところが、そのバランスを崩した者がおる」

「――桜宮悟明、ですか」

 一瞬躊躇ったものの、ここで情報の出し惜しみをしてもいいことはない。俺はストレートに訊ねていた。

「そう。奴だ。元貴族である桜宮家ならば、呪術師が生まれても不思議ではない。本来ならば、南夏家が保護すべき対象でもあるからな。しかし、奴はその前に姫神教会へと入ってしまった。ここから、話がややこしくなる」

「ちょっと待ってください。それって何年前の話なんですか」

 長く続く陰謀の末に、自分が動く羽目になったことは解っている。しかし、話のスパンが考えているよりも大きくなっていて困惑してしまう。

「五年前だよ。悟明が問題の教会に入ったのは五年前だ。とはいえ、その前から桜宮家を飛び出し、行方をくらませておったがな」

「ううん。って、あれ? 悟明って何歳ですか」

「今年で二十四だ」

「ってことは五年前って、俺と同い年」

「だな」

「っていうか、元帥閣下より年下」

「ああ」

 思わず普通に会話してしまうほど、これは意外な事実だった。それにしても、十九歳の時、か。これに何か意味があるのだろうか。

「ここに俺を呼び出したということは、帝はすでに何かお気づきだということですね?」

 今更一人称を私に戻すのが面倒で、俺はそのままの調子で訊ねる。すると、帝は今までに見たことがないほど可愛らしく微笑み

「そうだよ」

 と答えてくれる。

 ううむ、いったい今の何に彼女を喜ばす要素があったのか。普通は不敬だと怒る場面じゃなかろうか。

「ええっと、それは十九歳と関係がありますか」

 ともかく、機嫌がいいならば余計なことは言わず、話を進めるべきだ。俺は質問を続けると

「それは関係ないと思う。まあ、悟明は運命だと思うだろうが、大きな要因ではない」

 すんなりと答えてくれた。が、なぜか不快そうな顔をしている。

 一体何なんだ。やっぱりこの女帝の考えていることは解らない。解らないが、とりあえず今は姫神教会についての話と、悟明についての話を続ける。

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