第38話 運動会②

「「せんせーぃ!「ぼくたち」「わたしたち」は、スポーツマンシップにのっとり、冒険者の誇りをわすれず、正々堂々戦うことを誓います!!」」

「アルトム第一小学校六年二組アズラム・サラス」

「アルトム第二小学校六年一組ニーナ・バルダランティヌス」


 二人の生徒が都市長ゴクーの前で宣誓を行う。

 その後、軽くゴクーの挨拶を挟み、ゴリラ獣人の体育教師が壇上に立ち準備体操が行われた。


「腕を振りながら、お尻を振って膝の運動ぉ――……」

「胸をそらしながら腕をグルグルぅ、股関節の運動――……」


 いくつかの体操が行われ、深呼吸でしめ

 テンポの速い音楽がスピーカーから流れると生徒の皆がその場で駆け足を行う。


――全校生徒の退場です。


 一年生から二列になって順番にグラウンドをグルッと回って退場門へけていく。

 捌けた生徒からあわただしく次の競技の準備に向かう。


――プログラム一番。全校生徒による徒競走です。


 徒競走は一年の児童から始まる。

 二年生のチヨもスタート位置付近にならび、自分の順番が来るを待つ。


 一組10名が一斉に走る徒競走。しばらくすればチヨの順番が回ってくる。

 横一列に並ぶ五人がチヨと同じ第一小学校、残りの半分が第二小学校の児童である。

 獣人もヒト族もエルフもドワーフも男子も女子も関係なし、同い年の競争。


 スタートラインに付いたチヨは横に並ぶ競争相手を見る。

 第二小学校の生徒の中にただらなぬ気配を発する者が一人いた。

 猫獣人の男子、体操服につけられたゼッケンを見れば二年一組タタと書かれている。

 そのタタだけがクラウチングスタートのように地面に両手を付ける。


「位置について――」


 チヨは右足と左手を前に出して構える。


「よーい……」


 チヨはグッと前をゴールを見据え、タタは身を丸め四肢に力を込める。


 ドン!!


 ピストルが吠える。


 チヨは力を貯めた左足で地面を蹴る。土煙を纏ってチヨは前進する。いつになく良いスタートを切ることが出来た。

 しかし、それを越える相手がいる。


 タタだ。


 彼は恐ろしいほどの脚力でスタートラインを飛び出す。それは、まさに四足獣の走り。

 尾をピンと立てグングンと更に加速していく。


「「わーーー!」」


 タタのあまりの速さに保護者が湧く。

 

 そのスピードに一緒に走る者達は、早々に一等賞を取ることを諦める。が、チヨだけは違った。

 徒競走中盤トップスピードにのるタタにチヨの加速が少しづつ追い付き始める。


 しかし、トップを走るその背は徐々にではあるが近づく。しかし、追い付ききることは出来ない。ゴールまであとわずかの距離だ。


 チヨの闘志がぐらりと揺らぐ。


「チヨォォオ!しっかりせんかい!!」


 その瞬間、チヨの目に光が戻る。懸命に腕を振り足を動かす。太い竜の尻尾を右に左に振る。

 タタの背がもう間近だ。しかし、ゴールもすぐそこ。


「っ!!!」


 チヨは自分の翼を羽ばたかせる。飛ぶことはないが、わずかばかりの推進力を得る。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 周りの音は消え、自分の呼吸と足音だけが耳に届く。


 もうすぐ、もうすぐ、追い付く……




 パンパンパーン!!


 一着が入ったことを知らせる号砲が鳴り響く。


 タタとチヨ、ゴールを過ぎた所で膝に手をつき息を整えていると、1と書かれたフラッグを持つ体育委員の上級生が二人のもとへ走ってくる。


 体育委員は……タタの手を取り、2と書かれたフラッグを持つ体育委員がチヨの手を取った。


「あなた二番よ。あのタタと競るなんてすごいね」


「はぁ……はぁ……ありがとうございます」


 チヨは上級生に連れられて、二着の人たちがいる列に座らされる。

 チヨはすぐ隣一着の列を見るとタタが澄ました顔でまっすぐ前を向いていた。


「ねぇ、あなた速いのね」


「えっ?」


 前に並ぶ第二小学校の生徒がチヨに話しかけてきた。


「私、リッカ。アイツとおんなじクラスなの」


 そう言って、リッカはタタを指差す。


「そうなの?」


「うん。タタって四年生にも勝つのよ?それなのに、ほとんど同時だったんだから、あなたすごいよ!」


「えへへ。ありがと」


 照れたチヨは照れ隠しに鼻の頭をポリポリと掻く。


「名前は……チヨであってる?」


 リッカはチヨの体操服のゼッケンを読む。


「うん、合ってる」


「エヘヘ。ねぇ、私たちともだちにならない?」


 人懐っこい笑顔を浮かべリッカがチヨの顔を覗き込む。


「うん、いいよ!」


「じゃ、よろしくね。チヨ」


「うん、よろしく。リッカ」


 チヨは全力を出して負けたことが、とても悔しかった。

 しかし、新たな友達を得ることが出来て「一生懸命走って良かった」と心の底から思うことができた。


「あっ、次、キキちゃんだ!」


 チヨはスタート位置につくキキを見つける。


「ともだち?」


 リッカが同じ方向を見てチヨに尋ねる。


「うん、同じクラスで一番仲いいの……がんばれー、キキちゃーん!」


 その声援にキキが小さく手を振って答える。


「がんばれぇ!!」


 なぜか、敵チームのリッカもキキに声援を送る。


「いいの?」


「いいの、いいの。私は応援したい人を応援するんだもん」


 カラカラと笑うリッカにつられてチヨも笑顔がこぼれる。


――ドン。


 スタートの号砲がなる。


 キキは、まずまずのスタートを切ったものの今一つスピードに乗り切ることがなく六着でのゴールとなった。


 六着の列に並ぶキキにチヨが声をかける。


「キキちゃんおつかれさま!」


「エヘヘ。まけちゃったぁ」


 あまり悔しそうではないキキ。


「でも、キキちゃんれんしゅうの時より速かったよ」


「ありがと。でも、それ言うならチヨちゃんだよ。すんごく速くなってたよ」


「ねぇ、速かったよね?」


 突然、リッカが会話に加わる。


「う、うん」


 キキはびっくりしてチヨに目線で「誰?」と尋ねる。


「あっ、私、第二のリッカ。さっきチヨとともだちになったの。キキも私とともだちになろ?」


 その何の裏表もなく純粋に思ったことを口にするリッカの事を、チヨは申し訳ないが少しデンに似ていると思ってしまった。

 それは、キキも感じているのか――


「うん!もちろん。リッカちゃんね。ワタシのこと応援してくれてるから誰かなぁって思ってたの。ありがとね」


 と、友人になることをすぐに了承するのだっあ。


「いいのいいの。私、応援したい人を応援するから」


 こうして友達の輪が増えていく。チヨはとても運動会が楽しく思えた。


 しかし、チヨは気付いていないのだ。自分が諦めかけた時に送られた声援を……

 いつも聞きなれているからこそ、聞き流してしまった、あの声を……

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