第11話 デンのお仕事その2 アルトム大会議②

 時間は昼を周り、影がこじんまりと小さくなる。デンの頭皮は太陽にジリジリと焼かれていく。

 頭皮からはプツプツと玉のような汗が湧き出し、流れる汗を塞き止めるていた毛はどこにもない。


「グゴー……グガー……」


 それでも目を覚ますことのない、デン。

 顔見知りの住人たちが、ツルツル頭のデンを見ると一瞬「ギョ」っとする。

 しかし、この辺りに住めばデンの突飛なことはすぐ慣れる。皆が「あ~、なんだデンだった」と納得して静かに通りすぎて行くのであった。


 そんな中、男が一人この辺りでは見られないスーツ姿で大蝦蟇屋へと走ってくる。火急の用なのか、デンに気付くことなく店内に駆け込んでいった。


「イ、イズナルア様!デンのやつはどこです!?もう会議が始まりますよ?来てもらえるよう説得するって約束したじゃないですか?」


「はぁ……デンならそこよ」


 イズナルアはスーツの男にクルリと背を向け外を指差す。つられてスーツの男も今入ってきた戸の先を見る。

 戸にはめ込まれたガラスの先の先、道の真ん中に燦々さんさんと輝くツルツル頭。


「へ?」


 スーツの男も、あれですか?と指差しイズナルアを見る。


「……うむ」


 イズナルアは黙って大きく頷く。

 男はヨロヨロと店を出て間近でツルツル男の顔を覗き込んだ。そして自分の中のデン像と目の前のツルツル男を比較する。


 頭――髪がない。

 眉――眉がない。

 目――デンの目だ。

 鼻――デンの鼻だ。

 口――髭が無い……でも、デンの口だと思う。

 服装――合ってる。

 ……つまり――


「で、で、で、デン!!!!?」


「なんじゃあ、やっかましいのお」


 男は不機嫌そうに起きてきたその声を聞いて、本当にデンだと確信した。


「デン、お前どうしたんだ?」


「ガハハハハ!かっこええじゃろ!?チヨに切ってもらったんじゃ!それより、お前こんなとこほっつき歩いて仕事はええんか?」


 男はデンが気に入ってるのなら四の五の言うまいと、外見に関する言葉を飲み込む。

 この男ナズズと言い、家はこの近所。市庁舎に勤め今は都市長ゴクーの秘書官をしている。


「仕事ええんかって……お前もしかして覚えてないのか!?私はお前の仕事のためにここに来てるんだぞ!」


「へ?……なんじゃ、仕事って?」


「何をとぼけてんだよ?今日はアルトム大会議の日なんだぞ?」


「……ほうか」


 まったくピンと来ない顔で首をかしげるデン。


「そうか、じゃない!!デンの役職は何だ!?」


「決まっとる!チヨの親父じゃ!」


 自信満々に胸を張って答えるデン。


「ちっがう!!そうだけど、今日は違うじゃん!今日は……今日だけは、お前はアルトムののデンなんだよ!!」


 デンの肩を揺すりながら、切実な思いを伝える。


「おお!そうじゃ!そんなのあったのお」


 勝手に市庁舎に乗り込んで勝手に終身名誉都市長を名乗ったのも今は昔。とっくにそんな些事デンの頭から忘れ去られていた。


「あったのお、じゃない!自分で勝手に役職作っておいて無責任すぎるだろ!さっさと用意して行くぞ」


「どこへじゃ?」


「なんで毎年のことを忘れるんだよ。大会議に出席するの!その為にお前に毎月安くない給料払ってんだからな!」


 公務員の無駄遣いここに極まれり。なんとアルトムはデンに給与を支払っていたのだった。


「ガハハハハ!そんな怒るな。今、思い出したわい!よっしゃ、いっちょ行ったるかの!」


 そう言って立ち上がると、市庁舎とは真反対の明後日の方へと歩き出す。


「違う!庁舎はこっちだって!」


「ガハハハハ!ほうじゃった、ほうじゃった」


 マイペースにゆっくりと歩くデン。それを後ろから押すナズズ。ナズズはどうにか急がせようと力一杯デンを押すが全くびくともせず速度は変わらない。

 ピカピカと太陽を反射して今日は快晴だと道行く人に教えて歩くデンであった。


 そのころ市庁舎の『円卓の間』には、各国の王族、有力貴族、世界有数の大商人が席に着いて会議の開催がまだかまだかと苛立っていた。


「これはどう言うことなんだ、都市長!!開催の時刻をゆうに過ぎているではないか!?我々は忙しい身をぬってここへ来ているのだぞ」


 そう凄むのは世界一の国土を誇るマーユル王国国王マユル15世。それに同調するように他の者達からも不満が上がる。

 皆アルトムから少しでも多く魔石を輸出させようと躍起になっているのだ。


 その不満を一身に受け、胃が痛むゴクー。円卓とは言うものの、会議の開催者として一番の上座に座らされている。

 脂汗が頭から流れ出て、せっかくキメた髪型が崩れ、広い額があらわになっていた。


「わ、分かりました。会議を始めましょう……お、おほん。本日は執務公務で大変ご多忙な中、我が都市アルトムに良くお越しくださいました。この会議は皆様の国が発展するようにと願いまして――」


「挨拶などどうでも良い!さっさと魔石の輸出量の話をしようではないか!?」


 ゴクーの話を遮ったのは、経済大国のフォーン連合国のシナノ議長。フォーンは今一番アルトムから魔石を輸入している国である。


「はぁ、まったく……開会のあいさつを遮るとは、これだから品も格式もない新興国は……」


 マユル王がシナノ議長へチクリと嫌味を言う。


(まぁた始まったよ……)


 ゴクーは内心頭を抱える。いつもこうなるのだ。伝統と歴史を誇るマーユル王国と利益至上主義のフォーン連合は折り合いが悪いようで、ことあるごとに言い争いを起こす。

 しかもタチの悪いことにマーユル王国とフォーン連合は、この大陸の覇者たる二大列強国であり、ひとたび衝突し合えば、二人を止めることのできるものなどこの場にはいないのだ。


 ただを除いて……


 バターン!!


 両開きの扉が勢い良く開かれると、そこには息を切らしたナズズがいた。

 ナズズは入室前の一礼して、ツカツカとゴクーの元へ歩いて行く。

 そしてゴクーの耳元で何やらゴニョゴニョと耳打ちをするとゴクーの顔に安堵の色が浮かんだ。

 会議の出席者は何事かと色めき立つ。

 ゴクーは出席者の顔をゆっくり見渡しゴホンと咳払いをすると席から立ち上がる。


「皆さん、長らくお待たせしました。我が街のの登場です」


 パチパチパチパチ……


 ゴクーとナズズの二人だけの拍手が会場に鳴り響く。他の皆はついにあの男が来てしまったのかとゲンナリした様子で肩を落とす。


 ピッカー!!頭を輝かせデンの登場である。


 ナズズ以外の者達はその姿に呆然とする。中には吹き出してしまう者もいた。

 だが、ここで反応してデンの機嫌を損ねてはならない。

 さすが百戦錬磨の王族貴族達。すぐさま何食わぬ顔をして見せる。

 

 デンはと言えば、いつも通り「ガハハ」と笑いながら会場の中に入ってくる。


「ガハハハハ!!よお来たのぉ。おっ!?爺さんまだ生きとったんか?なんじゃ、お前は?見ん顔じゃの」


 ゴクーの隣に用意された椅子に着くまで一人一人声をかけて行く。

 マーユル王国もフォーン連合国も列強も弱小も関係ない。


 マユル、シナノの二人ともデンと目を合わせないように会議の資料を意味もなく読むフリをしていた。が、デンは関係なく声をかける。


「よお、マユルのオッサン!元気しとったか?」

 

 マユル王の肩がビクリと跳ねる。


「は、はあ。まぁまぁだな」


「まぁまぁ?なんじゃ、元気がないのお。シャキッとせい!」


 バシンッ!


 マユル王の肩を強く叩く。マユル王の顔が苦悶に歪む。それを見てシナノがほくそ笑む。


 しかし、次はシナノの番。


「おっ、あんたぁフォーンとこのもんかい?どうじゃ、景気は?」

「ぼ、ボチボチですね」

「ほーかいほーかい、そりゃけっこうなことじゃ!!ガハハハ」


 シナノはデンにバシバシ背中を叩かれ、顔を真っ赤に耐え忍ぶ。

 それを見てやはりマユル王が密かに笑う。


 デンは一通り話し掛け終わると用意された自分の椅子に腰かける。これにてデンの仕事の九割が終わった。


 じつは、アルトムは過去何度か大国の傘下に吸収合併されそうになったことがある。

 しかし、それがなされなかったのはデンがこの街にいるからであった。

 アルトムには世界最強の男という後ろ楯があるからこそ、一都市ではあるが他国から干渉されず存続することが出来るだ。


 デンの登場により先ほどまで偉そうにふんぞり返っていた者達が借りてきた猫のように肩身を小さく黙りこくる


 ゴクーはやっと話がスムーズに進むと喜んだ。


 つづく

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