第5話 デンのお仕事その1中編
ダンジョンの中。
そこは外とは全くの別世界。先ほどまで昼中だった世界が一転し夜闇が無限に広がる墓所に出た。無数の墓石と枯れた木々だけの世界。
これがこの第48号ダンジョンが『死者の揺り籠』と呼ばれる
「辛気臭い場所じゃのお」
デンは墓石の一つに腰掛け、墓に供えてあった腐ったリンゴをかじってみる。
サジは杖を地面に突き立て、目をつむる。
「濡れた犬の鼻先、綿毛舞う風、
サジが呪文を唱えると杖に取り付けられた魔石が輝きだす。その光が一点に集まり一つの方角を指し示す。
サジが使った魔法『行灯光路』は術者の行くべき道を指し示してくれる魔法なのだ。
簡単な魔法に見えるが相手がこの広大なダンジョン、しかも秘匿されたダンジョンの核を探し出すとなれば、熟練の魔法使いでも至難の技である。
それをやすやすと行うサジの実力はやはりS級に数えられるだけのものであった。
「デンちゃん、どうする?」
リザはアンデッド対策のため自分の大剣に聖者の遺骨で作られた砥石をこすりつける。これで一定時間剣に神聖な力を纏わせることができるのだ。
「ワシはまぁっすぐ向かう。あんた達ワシについて来れるか?」
デンが挑発するようにニヤリと笑う。
「ちょっと待ってね」
リザがそう言うと、サジが杖の天地をくるりと変える。そして、リザの足をコツン、コツンと杖の先の魔石で打つ。
「風となれ、光となれ。
脚力増強の補助魔法を施す。サジ自身には浮遊の魔法を使い空中に浮いて見せる。
「これで準備オッケーよ。行きましょう!」
「ガハハハ!よおし!位置についてぇ……よおい……ドン!」 サジとリザの二人が前のめりになる。「言うたら出発じゃ!ガハハハ!」
「ちょっと!そういうの良いから!」
わりと本気目の苦情をデンに申し立てる。
「お茶目じゃねえの。楽しく行かんとなあ!ガハハハハ……ドン!!」
バァン!!
とてつもない土煙を上げてデンが走り出す。
「ずるっ!」「なっ!?」
二人が出遅れ、デンの残した土煙を追うようにスタートを切る。
いくらS級冒険者のサジとリザであっても、このダンジョンを無防備に駆け抜けることなど普段なら出来ない。
しかし、先頭を行くデンが露払いをしてくれるお陰で何の苦労も無く進むことが出来る。
「本当にすごい人だ」
空を行くサジがリザに話し掛ける。
「ええ。本気で走ってるのに全然追い付けないわ」
うっすらと残る砂塵と魔物の死体がデンの通った過去を知らせる。
「見てみなよ。物理攻撃の効かないゴースト系の魔物も軒並み倒してる……」
「はぁ……はぁ……ほんとね」
サジとは違い自分の足で走っているリザに疲れの色が見え始める。
このダンジョンには弱い魔物など存在しない。さらに言えば魔物の氾濫の影響で下層の更に手強い魔物さえ溢れている。
魔法使いの最上位
挙げればキリの無い数々の魔物達が無惨に散っている。
デンの圧倒的火力よ。
デンが通った跡はペンペン草さえ生えないと冒険者達が冗談めかして言っていた事が事実であったのだと衝撃を受ける。
本当に何もないただただ、広い墓場を走っているような気さえしてきたころ。遠くの丘からドーン!ドンッ!!と何かが戦う音が耳に入る。
「急ごう」
「ええ」
リザは気力をサジは魔力を振り絞りさらに速度を上げる。
丘の上で二人が見たもの。
そこには肉が腐り落ち骨がむき出しになった、かつてドラゴンだったもの。それが悪臭を放ちながらデンと戦っていた。
「ド、ドラゴンゾンビ?」
ドラゴンゾンビにも格がある。ただの若い竜がゾンビ化したものならリザ達でも太刀打ちできるだろう。
しかし、今デンと相対しているのは、ドラゴンの最上位種、エルダードラゴンがソンビ化したものである。
まさにこのダンジョンの
リザとサジには、デンがドラゴンゾンビ相手に手こずっているように見えた。ドラゴンゾンビの攻撃を避けるだけで、デンは攻撃をしないのだ。
ドラゴンゾンビは毒性の強いブレスを吐けば、間髪いれずに尾でデンを叩き潰しにかかる。
それを躱すだけでやはり攻撃にはでない。
サジが魔法で助け船を出す。
「フレアアロー!」
ボンッ!
ドラゴンゾンビの頭部に魔法が被弾し、爆発を起こす。が、大したダメージにはならず、標的をサジに変えてしまった。
それも、作戦の内。サジが空中を器用に飛び回り、コツコツと魔法で攻撃をいれる。
その隙にデンは一旦、リザのいる場所まで戻る。
「デンちゃん大丈夫?」
心配と少しの安堵が混ざる。それはデンでも敵わない敵がいるのだと、やはり人間なんだと言う安堵。
しかし、その思いはデンの言葉で裏切られることになる。
「いやあ、あいつ臭くて敵わん。あんなもん触って臭いが移ってみい。チヨに嫌われちまう。悪いんだけど、あんたの剣ちいと貸してくれんか?」
なんと、ただ臭いがために……いや、娘に嫌われたくないがためだけに攻撃をしていなかったのだ。
リザはあまりのショックに「はあ」と開いた口が塞がらず変な返事をしてしまった。
デンはリザの大剣を軽々持つ。
「おう、なかなかゴツい剣じゃのお!じゃ、ちいとばかし借りるな」
構えなんてあったもんじゃないデンは剣を担ぎ走り出す。
「おーい、選手交代じゃあ!!」
未だチマチマ攻撃をいれるサジに声をかける。サジは妻の大剣を持ったデンを見ると「なぜ?」と、リザを見る。
リザは呆れたように首を振るだけ。困惑するサジの背中に突如、寒気が走る。
(まずいっ!!)
冒険者の勘がその場を離れろと告げる。
サジは魔力をフルで推進力に変えリザの方へと舵を切る。その瞬間――
ザァァアアンッ!!
ドラゴンゾンビの胴体が真っ二つに両断される。さらには勢い余って丘全体までもが割れていた。
(あのままあの場所にいたら……)
サジはゾクリと身震いした。
リザも自分の剣が、あんなポテンシャルがあったのかという驚きとデンへの畏怖で手の震えがとまらない。
ドラゴンゾンビの残骸が酸で溶かされるようにジュウウと音を立てて崩壊していく。その中をデンが鼻を摘まみながら歩いてくる。
「ガハハハハ!いやあ、助かった。恩に着る」
デンはブン!っと剣を一振して、ドラゴンゾンビの血を吹き飛ばすとグルリと剣を回し束の方をリザへ向け返す。
「……ど、どうも」
あまりの衝撃に声もでない。
そんな中、完璧に溶けて消えたドラゴンゾンビの中から虹色に輝く綺麗なクリスタルがフワリと空中に現れる。
「おう、綺麗じゃのお。どら、チヨへの土産じゃ」
デンがそのクリスタルに手を掛けようとしたとき、サジの手がデンを止める。
「待って。これ……ダンジョンの核だ」
冒険者をやっていても滅多にお目にかかれることはないダンジョンの至宝。さらにS級ダンジョンのものとなれば尚更である。
「そうかい。んじゃ、これを壊せば仕事もしまいじゃの」
さらにデンの手がダンジョンの核へと近づく。今度はリザがデンを止める。
「デンちゃん待って!壊すなんてダメよ。これひとつで数十億、下手すれば数百億ナグルはするのよ?ちゃんとギルドに持って帰って処置してもらわなきゃ」
「ええ!?これが億するんかい!?ワシ何十回と
「「え゛っ!?」」
三人が固まる。デンは核の値段の高さに。リザとサジはデンが核を何度も壊したことがあると言う事実に。
ダンジョンの核は魔石加工技術の向上により年々価値が高まっており、これ一つで国同士が戦争をしてもおかしくない価値があるのだ。それを何十も破壊したとあっては誰でも固まるだろう。
「なぁ、これワシらで猫ババせんか?」
「「え゛?」」
「ワシが壊したことにして、後で売って山分けにすりゃあ誰にも分からんじゃろ?どうじゃ?」
悪魔の囁き。
これから増える娘の授業料。良い魔法学校へ入れればさらに金がかかる。家のローン、老後の資金。二人の頭の中の算盤がパチパチと弾かれ計算される。
が、最後は良心が勝った。
「……だ、だめよ。ちゃんとギルドに提出しないと」
「そ、そうだな。それが一番良い」
「なんじゃ、つまらんのお。……ほいで、
デンは渋々手を引っ込める。
「ぼ、僕が持つことにしよう」
サジが恐る恐る核へと手を伸ばす。その希少性、価格、責任、サジの手はかつて無いほどの緊張で震えが起こる。
ちょうどその時、ドラゴンゾンビの腐臭につられてハエが一匹プ~ンと飛んできた。
ブー……ン。ブー……ン。ピタッ
それはデンの鼻先に止まる。
「ふぇ……ふぇ……ふぇ……」
「ぶぇーっ、くしょーーぉおおい」
とんでもないクシャミが爆発した。
パリンッ!!
その衝撃でダンジョンの核が粉々に砕け散る。
「「「げっ!!」」」
つづく
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