偽りの体に偽りの能力 されど心は真正なり
石のやっさん
第1話 銅貨1枚と体
俺は街の安酒場で温いエールを飲んでいる。
おつまみは、これまたクソ美味しくないソーセージだ。
黒髪は碌に手入れしないからボサボサ、無精ひげも生やしっぱなし、黒目は今じゃ濁っていると皆から言われる……全てに疲れた俺、内藤隼人に相応しい飲み物と食い物だ
昔の俺を知っている者が見たら……落ちぶれた。
そう言うだろう。
これを食って飲み、適当にブラブラ過ごすのが、今の俺の日課だ。
つまらない毎日を、ダラダラとまるでボーフラのように生きる。
それで俺は良いと思っている。
これでも昔は正義感に燃えて……今更いう必要は無い。
今の俺は、正義の味方じゃない。
『正義』『友情』『愛情』そんなのクソくらえだ。
そんな物『妬み』の感情には敵わない。
この世の中は碌な世の中じゃない。
『正義』『友情』『愛情』なんて物にどっぷり浸かった者は妬まれて碌な事にならないのを俺は知っている。
特に『正義』正義という名の剣は、片方だけじゃない。
両方が持っている。
そして正義の名の元に戦うなら……相手の正義を叩き潰さないと駄目だ。
残酷にならないと意味がない。
だが、昔の俺は甘ちゃんだった。
だから、俺はこのボーフラのようにフラフラ生きていく生き方を選んだんだ。
◆◆◆
いつもの様に、俺は街の安酒場で温いエールを飲んでいた。
おつまみは、これまたクソ美味しくない、いつものソーセージだ。
一口不味いエールを口に含むと……ただならぬ少女の声が聞こえてきた。
「誰か助けて下さい! お母さんが、お父さんがあぁぁぁーー殺されちゃう! 誰か、誰か、助けて下さい!」
ここに来るのは良い判断だ。
ここの酒場は冒険者ギルドから近い酒場だ。
だから、冒険者が沢山いる。
だが、それは普通の人間なら。
どう見てもみすぼらしい服を着た。貧乏な少女を助ける者などいない。
お金が無くちゃ冒険者は動かない。
それに、恐らく悪さをしているのは、最近よそから流れてきた、Bランク冒険者のガルバだ。
こいつ相手じゃ衛兵も怖くて手をださない。
Bランク冒険者を侮ってはいけない。
SやAは雲の上の存在。
そう簡単にいる存在じゃない。
それこそ数万人に1人の才能の持ち主だ。
では、Bランクは?
数百人に1人の才能の持ち主。充分すぎる程強い。
並みの男が20人で徒党を組んでも敵わない。
『自分より強い人間相手の揉め事の仲裁』まして依頼人は貧相なガキ。 恐らく金も満足に払えない。
そんな人間を相手にする冒険者は居ない。
「誰か、誰か助けて……お願いだから……グスっグスッスン、うっうっうわぁぁぁぁーー」
とうとう泣き出した。
どう見ても10歳満たないガキ女。
栗色の長い髪に白い肌、なかなか器量は良い。
あと6年後であれば他の対価で支払う事も……いや無理だな。
こいつがピチピチのボインねーちゃんで、一晩相手する約束をしてもBランク冒険者相手じゃ誰も受けない……普通はな。
「おい、ここにいるのは冒険者や傭兵だ……助けて貰いたいなら対価を差し出しな」
俺は泣いているガキ女にそう不愛想に伝えた。
「ううっグスッ、これ……これでグスッ助けて……」
そう言いながら泣きべそをかきながら銅貨1枚(約千円)差し出してきた。
多分、このガキのお小遣いなのだろう。
貧しい身なりから考えて、貯めたお小遣い全部なのかも知れない。
だが、そんな物じゃ俺の心は動かない。
勿論、誰も動かない。
「足りねーよ! これじゃ全然足りねー」
「ううっだけど、私、だけど、それしか持ってないもん……他に何も持ってないんだもん……ううっううっうあぁぁぁぁん、お母さん、お父さーーんうぐっスンスン」
バカなガキ……
「お前、ガキだけど女だろう? まだ差し出せるもんがあるじゃないか? それが分からないなら……もう終わりだ。お前の話はもう聞かない。これが最後のチャンスだ」
顔を青くして考え込んでいやがる。
ガキでも分かったようだ。
「ううっ……私、私を払います……ううっ、このお金と私の体でお母さんとお父さんを助けて下さい!」
さっき迄のガキの顔じゃない。
自分の全てと引き換えに『一番大切な物を守ろうとする顔だ』
だが、ここで俺は敢えて聞く……
「それは、その銅貨1枚と自分自身を奴隷として差し出す。そう言う事で良いんだな!」
相手はB級冒険者、此奴が美人のねーちゃんでも1晩じゃ釣り合わねー。
「はい……」
もう泣いていない。
この目だ……自分の大切な物を守るために全てを差し出す目。
この目になった人間の『救いを求める気持ち』を俺は振りほどけない。
逆にこの目が出来ない奴は……俺は助けない。
「商談成立、すぐに助けに向かう! やり方は俺に任せてくれるよな?」
「助けてくれればそれで良いです! 早く助けてーーっ」
「分かった……それでお前、名前は……」
「マイ……です」
「それじゃ、マイ、すぐに案内してくれ」
「はい」
泣きながら走るマイを俺は追いかけた。
◆◆◆
不味い、間に合わなかったか。
マイの家に飛び込むと
全身痣だらけの男が横たわっていた。
「お父さーーん」
マイが泣きながら父親の元に走っていった。
「マ……イ……逃げな……さい」
息絶え絶えだが話している。
どうやら間にあったようだ。
「うん、むぐっうん……」
その横でなかなか美人の女が縛られていて一人の男に担がれていた。
全部で三人いる。
その中央にいる奴がガルバだ。
ガルバは俺を見るとにやけた顔になった。
「お前は、確か隼人……俺達に混じりたくてきたのか? これから此奴を……えっ、ああああーーっああーー」
「下衆が! 俺がお前達に混じるわけねーだろうが」
走って行き剣を抜きガルバの腹を斬った。
心臓を突いたり、頭部を斬るのは、知らないうちにやっている人間の慈悲だ。
苦しませて殺すなら腹を裂いて臓物を引きずり出す。
それに限る。
侍が切腹で死ぬのは覚悟の現れ。
ただ事でない苦痛だ。
それは歴戦の侍ですらその苦痛に耐えられない程だ。
だからこそ、覚悟を示す事が出来るし、楽にするために介錯人がつき首を跳ねる。
臓物が腹からこぼれ落ちれば、例え傍に高位の回復魔法の使い手が居ても、まず助からない。
もし助かる可能性があるとすれば、零れ落ちた腸を腹にすぐに戻しポーションを振りかけるか、同じ状態で回復魔法を掛けるしかない。
「貴様ぁぁぁーーなにするんだよ! ただ女を犯そうとしただけだろうがぁぁぁーー」
「とち狂いやがってーー」
残りのクズが吠えてくる。
ガルバは死に物狂いで腸を戻そうとしているが、そんなの俺が許さない。
近くに行き思いっきり顔面を蹴り上げる。
腸を握っていた体がすっ飛んでいき転げまわっていた。
間違い無くこれでガルバは苦しみながら死ぬだろう。
外道は楽には殺さない。
それも俺のマイルールの一つだ。
後は……
今頃になり、残りの二人が俺に剣を抜き斬りかかってきた。
同じ様に腹を剣で切裂き、すれ違いざまに二人の眼球を斬った。
「腸をまき散らしながら転げまわれ……そのまま苦しみながら死ねよ……ゴミ」
「はぁはぁ、何故俺を殺すんだ……俺はお前に恨みを買うような事をしたのか……」
まだ生きているのか……しぶといな。
「俺達は悪だが、ハァハァ殺される程の事はしてーねー」
「小銭を脅し取るかハァハァ女を……」
「それを決めるのはお前達じゃねーよ! 俺が決めるんだ……それじゃあな。いい加減死にやがれ!」
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁーー」」」
俺は横たわっている三人の腹からはみ出した腸をひたすら踏みつけた。
かなり苦しみのたうちまわっていたが、暫くすると……完全に動かなくなった。
これで良い。
よく、時代劇やドラマで散々悪い事した奴が、楽に殺されていく描写があるが……あれが俺は許せない。
あんなのは復讐になってない。
悪党は、苦しみながら死ぬべきだ。
これでも手ぬるい。
顔を口に近づけると、息をしていない。
完全に死んだようだ。
◆◆◆
ガルバの革袋に手を伸ばす。
おっ、金貨が20枚も入っている。
まぁ、良いか?
その中から金貨5枚を抜き取り放り投げる。
残り15枚は俺のだ。
「そら、これをやるからポーションでも買って傷をなおせ」
「あり……が……とうございます……ハァハァ妻を……」
「助けて下さりありがとうございます」
手下の革袋も探る。
しけていやがる。
それぞれ金貨3枚と7枚か……
「気にする必要は無い、マイから代金を貰っているからな……マイ、約束を破るなよ! 今は家族で過ごす時間だ。最後の時間を楽しむんだな」
「うん……」
「約束を破ったら、お前や家族がガルバのようになるからな」
「うん、分かっているよ……」
顏が少し暗くなったが約束は約束だ。
「それなら良い……俺は近くの兎亭という宿屋にいる。 すぐに来いよ」
「マイ、どう言う事なの?」
俺は三人に背を向けその場から立ち去った。
さて、マイは約束を守るか……来なくても本当に家族ごと殺したりはしない。
もし、来なければ、俺の見る目が無かった。
そう思って諦めるだけだ。
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