第8話 ライバルとの衝突



翌朝、《暁の灯》の面々は意気込みを胸にギルド窓口へ向かった。《堕天の魔将殲滅作戦》を請け負うためだ。緊張した面持ちで掲示板の前に立つレオンを、カイルやリディア、ティオが囲む。


「兄貴……この依頼だよ」


レオンは小さく頷き、「……ああ」と短く答えた。危険すぎる依頼だと分かってはいたが、避けては通れない壁だと感じていた。仲間の視線も真剣そのものだ。


その時――。


「おっと、待てよ、レオン」


低い声が背後からかけられた。振り向くと、黒衣に身を包んだ大所帯の冒険者たちが立ちはだかっていた。


二十四名で編成されたライバルパーティ、《シャドウハウル》だった。代表者の男――黒鋼の剣士ラグナが口元に笑みを浮かべる。彼の背後には、副団長で双剣の使い手ディルク、そして灰衣の魔導師オルウェンが控えていた。



四人はいずれも《シャドウハウル》を象徴する中核であり、その存在感だけで周囲の空気を支配していた。その背後にはさらに二十名近い精鋭が並び立つ。


斥候や弓兵、槍兵、僧侶、盾役など役割は多彩で、小さな軍隊さながらの布陣だ。彼らの統率された立ち振る舞いは、寄せ集めに見える《暁の灯》との対比を際立たせていた。


槍兵は列を組み、弓兵は矢を番え、僧侶たちは結界の祈りを重ね、盾役は前衛で壁となるように並んでいた。その光景は戦場で即座に展開できる布陣そのもので、小隊規模の《暁の灯》には到底真似できない迫力だった。


「それは俺たちの案件だぜ」


「なっ……!」


カイルが食ってかかる。


「ふざけんなよ! 俺たちが請け負おうとしてたんだ!」


「へぇ? でも依頼は早い者勝ちだろ?」


ディルクが冷笑を浮かべて言葉を継いだ。


「それにしても……お前らみたいな寄せ集めで挑む気か? 雑魚が足を引っ張れば、魔将に食われるだけだぜ」


カイルはさらに強い口調で言い返そうとしたが、レオンが手で制して踏みとどまらせた。


その様子を見ていたオルウェンが、灰色の瞳を細めて冷ややかに言い放った。


「……やはり未熟だな。感情に任せて吠えるだけでは、戦場では生き残れんぞ」


ラグナが腕を組み、鋭い視線を突き刺した。


「俺たちは軍隊のように鍛え上げてきた。お前らとは格が違う」


さらにディルクも薄笑いを浮かべて肩をすくめる。


「まあ、せいぜい後ろから見て学ぶんだな。命を落とさなければの話だが」


代表者の挑発に、ギルド内の空気が一気に張りつめる。リディアは不安げに唇を震わせ、ティオは小さく舌打ちした。レオンは言い返したい衝動を抑え、静かに彼らを見据える。


窓口にいたギルド担当者が慌てて仲裁に入った。


「待ちなさい、両方とも。これは難関依頼です。二つのパーティで挑むのも一つの手ではありませんか?」


だが、《シャドウハウル》の代表者は鼻で笑った。


「合同? 好きにすればいいが……俺たちが先に行く。弱い連中は後ろからついて来い」


そう吐き捨てると、彼らは依頼書を奪うように手に取り、そのまま窓口を後にした。大勢の背中が去っていくのを見送りながら、カイルは悔しげに拳を握りしめる。


「くそっ、あいつら……!」


ティオも歯を食いしばり、リディアはただ黙って唇を噛んでいた。


レオンは静かに目を閉じ、そしてゆっくりと息を吐いた。悔しさも不安もあったが、それ以上に心の奥で炎が燃えていた。


「……後からでもいい。必ず、この戦いで俺たちの力を示す」


仲間たちはその言葉に顔を上げた。たとえ後塵を拝する形になっても、彼らには決して消えない灯がある。闇を切り裂く暁の灯火が、いま確かに燃えていた。

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