幼馴染に1日に28回告白された上にこっちから100回告白する羽目になった

@Comseeker111

第1話

「健介くん好き!」


 秋口の、少し低くなった空の下。


 俺は幼馴染の水島しらせに告白されていた。


 彼女は校内でもトップクラスの美少女で、穏やかそうな顔つきとロングヘアー、行動的な性格が男子にも女子にも人気である。


 成績も優秀だし、教師からの信頼もある。


 そんな彼女に告白されたのだ。


 だが俺はそんな状況とは裏腹に、落ち着き払っていた。


「聞いてくれ、水島」


「なに!? 受けてくれるの!?」


「俺はお前から今日だけで28回告白されている。そして一回目の際によろしくお願いしますって言ったはずだ。どうしたお前。アルツハイマーか」


「!?!?」


 水島は愕然とした様子だった。


「け、健介くんがおかしくなってる……!?」


「俺はいつもこんな感じだぞ」


「ていうかなんで28回も告白されてるのにOKしてくれないの!? おかしいでしょ!」


「オーケーしたって言ったじゃん。お前彼女×28だぞ現在。強化素材かよ」


「細かいこと言わないで! 私だってそろそろ泣きそうなんだから!」


「泣けばいいじゃん。俺ハンカチ持ってるよ」


「健介くんのそういうとこ、ほんと嫌い!」


「俺は水島のこと好きだぞ。だから泣くなよ」


「……っ!?」


 水島の顔が真っ赤になった。


 そして彼女は、俺の胸に顔を埋めて泣き出した。


「うぇぇぇん……なんでOKしてくれないのよぉ……」


「したよ。なんで話聞いてくれないの。したって言ってるじゃん。おちょくられてんのか俺」


「もぉー……わかんないよぉ……」


「何がわかんねぇんだよ。死んでんのか俺。叙述トリック? 実は水島は俺以外に告白してんのかこれ」


「うぅー……」


「泣くなってば」


 俺は水島の背中をさすりながら、彼女の綺麗な茶髪を撫でた。


 しばらくすると、彼女は泣き止んだ。


 そしてゆっくりと顔を上げる。


 その目には涙が浮かんでおり、頰には涙の跡が残っていた。


 そんな状態でも彼女は俺の目をじっと見て、顔をさらに赤くする。


「……ありがと」


「ん? ああ」


「……健介くんさ」


「ん?」


「……私のこと、好き?」


 水島は上目遣いでそう尋ねてきた。


「好きって言ってんだろ!! 28回さぁ! あ、29回目だ。もううんざりだ! もうたくさんだ! いい加減にしろ! 好きって言ってんだろうが!」


「え、あ、うん……ありがと……」


 水島は顔をさらに赤くして俯いた。


「でもさ……私ってそんなに魅力ない?」


「は?」


「だって健介くん、全然私に手出してくれないじゃん」


「手出すも何もまだ帰宅すらしていないからね? いやだよ俺学校でスケベなことするの。三次元でそんなことしたら即バレるし」


「健介くん頭硬いなぁ! いいでしょバレなきゃ!」


「お前ほんとどうした。今日ちょっとおかしいぞ。恋は人を狂わすって本当だったんだな」


「もう28回も告白してるんだよ! 正気じゃいられなくなるよ!」


「自覚あったのかよ。俺の葛藤はなんだったんだ」


「なんでもいいから! 早く手出してよ! 健介くんは私のこと嫌いなの!?」


 水島はまた泣きそうになりながら訴えてくる。俺はその問いには答えなかった。


「いや、好きだけど……そんなのは違うだろ」


「なにそれ!? そんなのってなに!?」


「いや告白してオーケーしてその場でって何だよ。進みすぎだろ現代日本。どうなってんだ」


 俺がそういうと、彼女は黙り込んでしまった。そして少し経ってから口を開く。


「……私ね、健介くんのことずっと好きだったんだ」


「あーもうほら29回目突入しちゃったんじゃかもぉさぁー! もー! もー!」


 俺は頭をかきむしりながら叫んだ。


「健介くんは私のこと、嫌い?」


「好きって言ってんじゃん! 言いました! 何遍も何遍も言いましたぁ!」


「健介くんは、私の事好きなのに、どうして何もしてくれないの?」


「追々するから! 1週間以内には多分するから! 時期を待て! そういうのは!」


「わ、私のこと、やっぱり幼馴染としか見れないよね……そうだよね……」


「またループだよ。なんだこれSCPか? オーケーって言ってるのに」


「わ、私がこんなんだから、健介くん困っちゃうよね……」


「困ってるのは間違いないな。よくわかってんじゃん。なんか断ろうかなとすら思ってるよ今」


「ひどい!」


 水島はまた泣き出した。


「もう泣くなよ……俺が悪いみたいじゃん……」


 俺は彼女の頭をポンポンと叩いた。


 すると彼女は泣き止み、少し落ち着いたようだった。


「なんでそんなに嫌がるの? 私健介くんのこと大好きなんだよ?」


「嫌がってないよ。嫌がるハードルが果てしなく低いよ」


「じゃあなんで? なんで私と付き合ってくれないの?」


 水島が、俺の目を見てそう尋ねてくる。


 俺はその目を直視できず、思わず目を逸らしてしまった。


 そんな俺に対して、水島は追撃をかけてくる。


「もしかして……他に好きな人がいるとか?」


「付き合ってんだよぉ! もうさぁ! 俺とお前付き合ってんの! わかる!? 罰ゲームかこれ!? あぁ!?」


「……いるの?」


「いねぇよ!」


 俺はそう強く言い返す。


 すると水島は、ホッと安堵の息を吐いた。


「よかったぁ……健介くんに好きな人がいたらどうしようかと思った」


「あ、話通じた……! お帰り水島。なんか泣きそうだわ」


「ごめんね。私が間違ってたよ」


「ほんとだよ」


「じゃあ健介くん、私と付き合ってくれる?」


 水島が、俺の目をしっかりと見てそう言った。


 俺はその目を見て、思わずたじろいでしまう。


 そんな俺の様子を見て、水島はまた顔を俯けた。


「……やっぱり……まだダメなの……?」


「……っ!」


 そんな彼女の姿を見て、俺は胸が痛くなるのを感じた。


「お前は認知症なのか……? 俺は付き合ってるって言ってるじゃん……お前、なんで素直に受け入れてくれねぇの……?」


「だって……健介くんが今までに28回私に告白してくれたのはわかってるけど……」


「まだ言ってるよこいつ。事実の錯誤が甚だしいわ」


「でも、私はもっといっぱい告白してほしい。私は健介くんのことが大好きだけど、健介くんはそうじゃないかもしれない。だから私はもっとたくさん告白するし、もっといっぱい好きって言うから。だから……」


 水島はそこで言葉を区切り、顔を上げた。


 その顔は真っ赤に染まっていた。


 そして彼女は、俺に言った。


「いや、知ってるよ? うん、私は一日で28回健介くんに告白して、28回オーケーされた」


「わかってたのかよ。何の実験だったんだ。途中からからかわれてるのかって真剣に不安だったんだぞ」


「うん、でもさ。健介くんから告白され足りないの。私はもっともっともっと健介くんに好かれたい」


「……」


「もっと、もっと、好きって言ってもらいたかったんだ……」


 水島は真剣な眼差しでそう俺に言った。


 俺はそんな水島の目を見て、思わず息を飲んだ。


 ……いいや、俺から言わねば。


「水島、いや、しらせ……! 俺と……付き合ってください……!」


 俺がそうはっきりと言うと、水島は顔を真っ赤にして、涙を流し始めた。


「う、嬉しいよ……! 健介くん……!」


 彼女は俺に抱きつき、胸に顔を埋める。


 そんな彼女の頭を撫でると、彼女はさらに強く俺を抱きしめた。


 俺もそれに応じるように、彼女を抱きしめる力を強くする。


 そして俺たちはしばらくの間抱きしめ合っていたが、やがてどちらともなく離れた。


「……じゃああと27回言って」


「は?」


「釣り合わないからあと27回言って」


「仮に。仮にさ? 俺が9999999999回くらいお前に告ったらどうなんの?」


「そんな回数を一日にこなすのは無理だよ。物理的に」


「なんだろうお前ぶっ飛ばすぞ?」


「健介くん、私ね。今とっても嬉しいの」


 水島はそう言うと、俺に抱きついてきた。


 そして彼女は俺の胸に顔を埋めて、上目遣いで俺の顔を見ながら言った。


「だから……あと27回言って……?」


「……っ!」


 その笑顔は、今までに見たことがないくらい綺麗だった。


 そんな彼女の姿を見て、俺は思わず息を飲む。


 そして俺は、そんな水島に対してこう言った。


「好きだ! しらせ! もう一生離したくない! 俺と付き合ってくれ!!」


「あと26回! 健介くん好き! 回復した! あと27回! がんばれ!」


「風情がない! 風情がないよ! いやだよ俺こんなの!」


「好きー! あ、あと28回! 振り出しだね! 好き! 29回! あと1回で30回! 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き! これはジャックポット! あと100回私に告白してね!」


「もうやだこいつ! もうやだぁ!」


 俺は半泣きになりながら、水島を抱きしめた。

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