潮騒とともに始まる物語は、驚くほど静かで、震えるほど詩的な描写の中に、主人公の深い孤独と自己への嫌悪が滲み、でも、それが醜悪に向かわずに、どこまでも美しく、かつ、自分語りの体裁を取りながらもどこまでも客観的であることに、非常に驚きました。
海や波、海藻、カニといった自然のモチーフが巧みにそれぞれの心情と重ねられ、「評価されたい」「走り続けなければならない」という焦燥が、未成熟な自意識を鮮やかに映しています。
未成熟な自意識は、1歩間違えると気持ち悪い方向に向かいます。でもこれはそうじゃない。どこまでも美しい。作者様の年齢がどれくらいなのかわからないけれど、老成された感じもあるからすごく不思議です。
次章では挫折した役者が登場してきます。
彼の語りには、他者との不和や自己矛盾への痛切な自覚があり、海へと導かれる幻想的な展開は、再生と破滅の狭間をうまいこと攻め込んできている(不遜な言い方、ごめんなさい)あたりに、この方の文章のうまさを感じました。
静かで確実、間違いなく筆の力がある作者の筆致の裏に、自己理解と救済を求める切実な叫びが響いて来るようなこの文章を、ぜひ楽しんでほしいと思います。
純文学寄りの、でもかたくるしくない美しい文章をぜひ楽しんでほしいと思います。
U24作品です!