ラスボスをねじ伏せたら無限の魔力が手に入ったので、地球に帰還しました。~チート魔力でゲーム世界と現実世界を無双します~
ナガワ ヒイロ
第1話 黒幕をねじ伏せたら無限の魔力が手に入りました
「ん、あと、ちょっと……わっ!!」
本棚の上の方にある本を取ろうとして、僕は梯子から足を滑らせました。
ドンッ!!
その拍子に勢いよく床に頭を打ち付けてしまい、大量の血がどくどくと流れ出ます。
朦朧とする意識の中、僕の頭に知らない記憶が入ってきました。
「……あれ? 俺、転生してます?」
思い出したのは前世の記憶です。
ゲームが好きなだけの、自宅に引きこもりがちな高校生の記憶。
そして、同時に気付いてしまいます。
俺が今生きているこの世界が、前世でやり込みまくっていた『ファイナルストーリーズ』の世界ということに。
更に言えば、俺はメインストーリーにも登場するキャラクターだったようです。
あ、主人公ではないです。
俺は悪役として主人公たちの立ちはだかるマギルーク王国の第二王子、ジオルグ・フォン・マギルークです。
「ジオルグ殿下、今し方大きな音が――ジオルグ殿下!? そのお怪我は!?」
「あ、すみません。足を滑らせて梯子から落ちてしまいまして」
梯子から落ちた時の音に気付いたのでしょう、部屋に入ってきた側付きの侍女が頭から血を流す俺を見てギョッとしていました。
しかし、駆け寄ってきた侍女はあるものを見て深く溜め息を吐きます。
俺が取ろうとしていた本――魔法について書かれている魔導書です。
侍女は宥めるように言いました。
「ジオルグ殿下。こう言ってはなんですが、殿下は魔法が使えないのですから、もう魔導書を漁るのはおやめになられては?」
そうです。
俺は魔法を使うことができません。魔力を持っていないからです。
そして、それこそ
ジオルグは王族や貴族なら使えなくてはならない魔法を使えず、両親や兄弟姉妹から邪険に扱われて育ったのです。
結果、めちゃくちゃ性格が歪みます。
そして、マギルーク王国の城地下深くに眠る禁書を開き、その中に封印されていた『邪竜』と契約して絶大な魔力を得ます。
俺は今年で十五歳になるので、今からちょうど三年後の出来事です。
力を得たジオルグは自分を邪険にしてきた両親や兄弟姉妹を皆殺しにして、世界に宣戦布告。
強大な力で人も魔物も従え、世界征服を試みましたが……。
そこで女神から『邪竜』を討伐する使命を授かった勇者――主人公によって倒されてしまいます。
最後には更なる力を求めて『邪竜』に助けを乞いましたが、『邪竜』はジオルグの肉体を操って自らが復活するための生け贄にされるのです。
典型的な黒幕に利用されて最後は惨めに死ぬ三下の悪役ですね。
自分のことながら気の毒です。
っと、ゲームの設定を思い出すのは後回しにして今は侍女の言葉に頷きましょう。
「そうですね。時間の無駄遣いはやめて、もっと有意義な趣味でも探しましょうか」
「え? ほ、本当にやめるのですか? あれほど魔法を使いたがっていたのに……」
「ええ、やめますとも。そもそもいくら魔導書を漁っても魔力がないならどうにもならないですし、魔力を使わない魔法は存在しないでしょうから」
ゲームをやり込みまくっていた俺は知っています。
魔法は魔力がないと使えない、それがこの世界のルールなのです。
一応、主人公のステータスを伸ばす専用アイテムは世界各地に存在しますが、あくまでも主人公専用。
主人公ではない俺にそれらのアイテムを使うことはできないでしょう。
侍女は俺があっさりと頷くとは思わなかったようで、呆気に取られていました。
とはいえ、『邪竜』を封じた禁書を放置するのは心配です。
俺はもう魔法を諦めますが、あの禁書を他の誰かが使えばシナリオ通りに世界が大変なことになってしまいます。
主人公が『邪竜』を倒してくれれば万事解決ですが、もし負けてしまえば一大事です。
魔法を使えない俺は、きっと真っ先に死んでしまうでしょう。
死ぬのは怖いので、対策を打たねばなりません。
「少し地下書庫に行ってきます」
「ちょ、ジオルグ殿下!? 頭を怪我なされたのですからお部屋でお休みになってください!!」
「手当てしてもらいましたし、大丈夫ですよ」
俺は禁書があるマギルーク王国の地下書庫に向かいました。
地下書庫に入ろうとしたところ、警備をしていた兵士たちがボソッと呟きます。
「魔力もないのにまた魔導書漁りか。無能王子は諦めだけは悪いよな」
「おい、聞かれるぞ」
「聞かれても誰も文句言わねーよ。王子の中で唯一王位継承権を持っていない無能を庇う馬鹿はいないからな」
酷い言い草です。
まあ、両親や兄弟姉妹から邪険にされている王子に味方する者がいないのは事実ですが。
俺は兵士たちの陰口を無視して、地下書庫の奥深くを目指します。
地下書庫はマギルーク王国の初代国王があらゆる魔導書を納めるために作った特別な部屋です。
この地下書庫では本が湿気や虫に食われてダメになることがなく、二千年をかけて集まった魔導書があります。
このどこかに禁書があるはずです。
ゲームのジオルグは魔力がなくとも魔法を使えるようになる方法を知るために、長い時間をかけて地下書庫にある魔導書を全て調べたのでしょう。
そうして『邪竜』を封じた禁書を見つけたのかも知れません。
その時でした。
『――』
「おや?」
頭に直接声が響いてきました。
思わず寒気がしてしまう、おどろおどろしい声でした。
俺は声に従って地下書庫を歩き、ある本棚の前で足を止めます。
『汝。力が、ほしいか?』
「ふむ?」
『力がほしいなら、我がくれてやろう。我を手に取り、開くのだ。さすれば汝に絶大な魔力を与えてやる』
見つけました、『邪竜』を封じた禁書です。
俺は禁書を本棚から抜き取り、声を無視して部屋に持ち帰ります。
『おい、なぜさっさと我を開かぬのだ?』
「……」
『なぜ無視をする? 我の声が聞こえていないわけではないだろう?』
「……聞こえてますよ」
『おお、聞こえておるではないか!! なぜ我を無視する!!』
「ここは王城です。どこで誰が見てるか分かりません。そんな場所で本とお話していたら、俺が変な人に思われてしまいます」
『む、それもそうか』
俺は適当な理由を並べて『邪竜』を黙らせ、自分の部屋に到着しました。
魔法が使えないせいで王位継承権を持っていないとはいえ、仮にも王子です。
部屋に最低限の家具はあります。
俺は暖炉に火を着けました。そして、その中に禁書を放り込みます。
『え!? ちょ、熱っ!! 何してんの!? 汝、何してんの!?』
「いい紙だからですかね、よく燃えます」
『な、汝!! 自分が何をやっているか分かっているのか!?』
「邪竜を封じる本を燃やしてるだけですが」
『!? な、なぜ我の正体を知っている!?』
前世の記憶を思い出したから、と言ったところで信じられないでしょう。
禁書が端から灰に変わっていく光景をまじまじと見つめていると、『邪竜』は諦めずに俺を説得してきました。
『待て待て!! 我と契約すれば、汝は絶大な魔力が手に入るのだぞ!? 汝のことはずっと見てきた!! 魔法が使えないなどというくだらない理由で汝を蔑ろにし、見下してきた者共に復讐したくはないのか!?』
「つい先ほど魔法に興味を失くしまして。一足遅かったですね」
『ちょ、熱っ、やばい!! もう半分くらいしか残ってない!? よ、よし、分かった!! 汝には特別に絶大な魔力と我の魔法の知識をくれてやろう!! 復讐はおろか、世界征服も夢ではないぞ!!』
ここで契約すると言ったら、きっとゲームのジオルグより更に強大な力を扱えるようになるのでしょう。
悪くない提案です。しかし、しかしです。
「なんというか、上手く言えないのですが」
『な、なんだ!? やっぱり我と契約する気になったのか!? だったら早く火を消して――』
「本来なら自分など足元にも及ばない圧倒的強者を見下ろして、一方的な暴力でねじ伏せるのは気持ちいいですね」
『な、汝、さてはとんでもない性悪だな!?』
黒幕に性悪呼ばわりされてしまいました。誠に遺憾ですね。
『汝、絶対に許さんからな!! こんな書物に封印されてなかったら、汝ごときギッタンギッタンのケチョンケチョンにしてやるからな!!』
「絶妙に語彙が古いのは長いこと封印されていたからですか?」
『ぐ、ぐわあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!』
ようやく禁書が燃え尽きて、『邪竜』が断末魔の叫びを上げます。
これにてミッションコンプリート。
もう禁書が誰かに開かれて『邪竜』の封印が解かれることはありません。
世界はこれからも今まで通りに続いていくはずです。
ハッピーエンドですね。
もう夜も遅いので、俺は自室のベッドに潜って毛布を被り、眠ることにしました。
これからジオルグとしてどうやって生きていくのかを考えるのは、面倒なので明日にしようと思います。
どれくらいの時間が経ったでしょうか。
程よい眠気が襲ってきて、うとうとしたところで何者かに身体を揺すられました。
「おい、汝。起きろ。おい!! 起きろ、汝!!」
「ん、誰です……?」
「我だ!! 邪竜ディアベルだ!!」
目を開けると、そこには漆黒の鱗で全身を覆った小さな竜がパタパタと翼をはためかせて浮いていました。
ちょっぴり出たお腹が丸くて、あまり威圧感は感じないです。
ぬいぐるみのような可愛さがありますね。
「どちら様でしょうか?」
「汝が燃やした禁書に封じられていた竜だ!! 何となく分かるだろう!?」
「ああ、そうでした。ディアベルはたしかに邪竜の名前ですね。……随分小さいですね? 俺の知る邪竜は城よりも大きな竜だったはずですが」
「封印から抜け出すために、禁書の中に我の無限の魔力を残してきたからな。今の我では最弱のスライムにも劣るだろう」
ゲームでは最強だった黒幕の邪竜が、今ではスライム以下とは。
俺が原因とはいえ、とても面白い状況に陥ってますね。
「おい、汝。何をニヤニヤしている」
「いえ、マスコットみたいで可愛いなーと」
「な、汝、どの口で!! ……いや、今はいい。それよりも汝、我の魔力を返せ」
「魔力? 俺に魔力はありませんよ?」
「違う、汝の魔力ではない。我の魔力だ」
そう言って、ディアベルは尻尾の先っぽで器用に俺の胸を小突いてきました。
「我の魔力を残してきた禁書が燃え尽きたことで、その中にあった魔力が禁書を燃やした汝に吸収されてしまったのだ!!」
「俺が魔力を吸収? それは、俺は大丈夫なのでしょうか?」
「……普通の人間ならば、本来その者が持つ魔力が拒否反応を起こして死に至る。しかし、汝は魔力を持たぬ者。我の魔力を吸収しても問題はない」
そこまで言われてから、俺は気付きました。
俺という例外を除き、生き物は大なり小なり魔力を持っています。
普通の人間がディアベルと契約し、その魔力を行使しようとすれば拒否反応を起こして死ぬということは……。
俺以外にディアベルと契約できる者はいないということになってしまいます。
つまり、禁書を燃やしたのはあまり意味のなかった行為のようです。だって俺が禁書を無視したら済む話ですから。
完全に無駄な行為でしたね。
ゲームでディアベルがジオルグに目を付けたのは、生まれながら魔力を持っていなかったからかも知れません。
その時、俺はふと思いつきました。
俺の中には今、ディアベルの魔力があります。
今ならもしかすると、魔法を使えるのではないか、と思ったのです。
侍女に言われて魔法は諦めるつもりでしたが、それは魔力を持たないという体質だったからに他なりません。
もし魔力が手に入ったなら話は別です。魔法を使ってみようと思います。
「――
俺は呪文を詠唱し、指先に小さな火種を灯す初級魔法を発動しました。
初級魔法は呪文の詠唱さえすれば、特に難しいことをしなくても使うことができる初歩的な魔法です。
そう、初歩的な魔法のはずだったのです。
しかし、呪文を詠唱した次の瞬間。
俺の指先で禍々しい魔力が渦巻いて巨大な魔法陣が出現しました。
嫌な予感がして魔法の中断を試みるも、初級魔法は発動が容易い上、発動までの時間がとても短くて間に合わず――
チュドーンッ!!!!
鼓膜が破れてもおかしくない爆音が響き、目を灼くような閃光に思わず顔を覆いました。
しばらくして視界も聴覚も正常に戻ったものの、目の前には信じられない光景が。
「おお、中々の絶景ですね」
「な、汝、最初に出てくる感想がそれか!?」
俺の部屋に巨大な穴が空いていました。
その穴から外の様子を確認すると、俺の
至るところから悲鳴が上がり、王都はパニックに陥りました。
何ということでしょう。
俺はたった一冊の本を燃やしただけで、人外の力を手にしてしまったのです。
「な、汝、どうするのだ。汝の同胞を大勢殺してしまったのではないか?」
「そうですね、困ったことになりました。……しかし、この魔力があれば何でもできそうですね。試しに俺たち以外の時間を巻き戻してみましょうか」
「え?」
魔法は魔力の量や質、知識も大事ですが、何よりも想像力が大切です。
この想像力さえあれば、細かい理論は後回しにして魔法を使うことができると古い魔導書に書いてありました。
無論、それだけ魔力の消費も激しいのですが……。
ディアベルの無限の魔力があれば実現することも難しくないでしょう。
俺は録画したテレビを巻き戻すイメージで魔法を発動しました。
すると、あら不思議。
王都の蒸発してしまった人や建物も、俺の部屋の壁もすっかり元通りです。
「素晴らしいですね。この圧倒的な力、万能感とでもいうのでしょうか。力を振るうのはとても楽しいです」
「我の無限の魔力が、絶対に渡っちゃいけない人間に渡ってしまった気がする」
「ふふふ、明日は何をしましょうか」
こうして俺は、無限の魔力を手に入れたのです。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
今作は作者の机の引き出しの奥に入れたまま存在を忘れていたノートに書いてあった妄想設定を元に執筆した作品です。笑え。
笑ったら★★★ください。
「面白そう」「邪竜が不憫すぎる」「笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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