第26話 生花のコサージュ
フィガロは走った。水色の砂を辿りながら。これはフィレオの涙だ!
フィガロは何度もフィレオの名を呼んだ。たどり着いたのは病院の入り口、砂絵の前。
「フィレオ!!」
まるで置物のようにフィレオは動かない。肩にそっと触れてみると、ざらざらとした砂の感触。
春馬 真人は植物状態だった。病気に打ち勝てなかった。しかし脳みそだけは動いていて、それがフィガロの世界になった。フィレオは病院の一部として生きていた。フィレオは患者の気持ちを一人で受け止め続け、そして……誰もが見捨てた少年に、名前を与えた。
顔をあげたフィレオの顔は、肌の色だけで、目鼻口が無かった。
「あの、フィレオ、さっきは……その、取り乱してごめん」
フィレオは再び膝を胸に抱え込み、顔を隠した。
「……元の身体に戻りたいなら、私の力を使って」
フィレオは生花のコサージュをもう一度手渡そうとした。
「こ、これはさっき塵になった……」
「コサージュを抱きしめて。生きたいと念じるの。そ、したらあなたは……」
フィレオの身体は崩壊し始めていた。乾いた砂のようにヒビが入る。もしも、フィガロが真人として生きる方を選ぶなら、フィレオは砂絵にも帰れず、ここで砂になって消えてしまう。フィガロは、真人は……
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