第25話 本当の願い
何処かへ歩いて行ったフィレオに目もくれず、再び真人に向き合うフィガロ。砂にされた挙句本当の自分を目の前にして何もできない。写真立てにはおそらく家族であろう写真。母親、父親、そして幼い自分。何十年入院していたのだろう。ふと、両親の名前を思い出せない自分に気が付く。
本当に自分が真人であれば思い出せるはず。長い無機質な世界で無気力に生きてきた。真人、フィガロ、二つの名前、存在する意味、もっと早くあの世界から脱出できていたら……
どさっ!と本が一冊机の上から落ちた。『砂絵百選』という分厚い本。
「付箋が貼ってある……」
ページをめくる。そのページには──『孤島のフィレオ』という題名の砂絵が載っていた。間違いない。フィレオは僕の──
「初恋の人だ」
喉が裂けるほどの叫びが病室に響く、姿なき少女の名前。走るたびはっきりと自分自身の記憶が蘇る。自分は身体が弱く、入院ばかりしていた。だけど、あの砂絵を見ている時だけ元気をもらえた。いつか海へ行ってみたい。それよりも、白い服のお姉さんに憧れて、その人の微笑みに触れたくて、治療もリハビリも頑張れた。なのに!フィガロは──フィレオを泣かせてしまった。あんなに見守ってくれた人を。つらい現実まで身を削ってまで連れてきてくれた人を!
砂絵まで辿り着いたフィガロを待っていたのは、膝を胸に抱え込み、肩を震わすフィレオだった。
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