第24話 悪魔

 長い沈黙の後、フィガロは呟いた。

「フィレオ、この人は誰」

 トーンを落とした声で問うフィガロと、目線を交わさない無言のフィレオ。

 真人には延命措置が施されていた。人工呼吸器で肺を動かしている。フィガロは自分の事をただの石ころとして生かされていた自分と重ねた。誰かがぶちっ、ぶちっと何かを外した。

「あなたは砂、私も砂……」

 フィレオの両手には今まで身に着けていた真っ白な花のコサージュが束ねられていた。それを少し名残惜しそうに抱きしめた後、フィガロに手渡そうとした。

 

「此処で眠っている真人が本当のあなた」


 植物人間状態の患者。それがフィガロの世界だった。

 

「死んでいるじゃないか!この花は献花?ふざけるな!」

 フィガロは白いコサージュを片手で叩き落とす。今まで綺麗だと思っていた花が、今では憎くて仕方がない。早く砂になってしまえ、消えろ!と念じてしまうほどに。信じていた少女、女神、光?もう化け物にしか見えない。自分の運命を弄んだ──

 

「お前は悪魔だ!フィレオ!」

 

 その言葉と同時に、真っ白な花のコサージュは塵となって消えた。

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