第19話 男の子

 砂絵は触れると砂がとれちゃうから、触らないでくださいって書いてあった。でも触っちゃうよね。ざらざらとした色のついた砂。綺麗だと言う人もいれば、汚らしいと言う人もいた。退院できたのはあなたのおかげと言われた時も、何も言わず睨まれた時だって、色々な人が砂絵を見た。ある日、砂絵を見ている男の子がいた。母親と手を繋いでいた。長い時間見ているものだから、母親が「そろそろ行きましょう」と病院の中に入ろうとした。そしたらその子は大泣きしたの。

 次の日も男の子は来た。今度は一人で。まるで私を忘れないように、目に焼き付けるように。そんなことしなくても、明日も明後日も来てくれたら見られるのに。男の子は毎日のように来た。何か月も、何年も。そして、ある日を境に来なくなった──

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