第18話 砂絵
その意味を、フィガロはまだ思い出せなかった。
優しい抱擁。それはやがて粒となって流れ落ちる。綺麗な言葉で例えたい。
落花流水──ぴったりじゃないか。
フィガロは目をゆっくりと閉じた。フィレオはどんな表情をしているだろう。やがて二人の人間の形は砂になって混ざっていく。不安も恐怖も喜びも記憶も──
***
「名取先生、このような立派な砂絵を我が病院に寄贈していただきありがとうございます」
「こちらこそですよ、九条院長」
二人の男が病院の入口に飾られた大きな砂絵を眺めていた。
「青い空、海、砂浜、そしてこれは……少女ですか」
「はい、この病院に初めて訪れる方、そして長く滞在する方……私はこの病院に居る全ての方に明るい気持ちになってもらいたくてね。この病院の近くには海がありませんが、いつか元気に退院したあかつきには綺麗な海を訪れ、砂の粒を踏みしめ、生を確かめてほしい。そのような願いを込めました。この少女には希望を与える存在になってほしい。私はそう思っております」
「ほほう。さすが砂絵職人。素晴らしい想いだ。きっと患者さんもそう思ってくれることに違いない。そういえばこの少女に名前は無いのですかな?」
「ありますよ。少女の名前は……」
***
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