第5話 偶像崇拝

 ベッド横の壁に小さく彫った自分の名前は消えていない。初めて見た光景にフィガロは今までにない高揚感に包まれていた。食事の時間だ。いつものロボット。就寝。海。起床……神様はあの日以来現れなくなった。

 名づけられた少年は、次に神を求めた。あれの少女は女神だ、神様だ、光だ。そうに違いない。もう一度会うにはどうしたら良いかだけを考えた。枕の下に隠し、まだ没収されていないスプーンは角を帯び始めた。あの少女を忘れないように絵を壁に彫ることにする。点を穿つように少しずつあの日見た光を記憶をたどりながら、忘れる前になんとか形にしたかった。

 頭の中には強く強く焼き付いているのに、実際にやってみると中々難しい。フィガロは石工ではない。うーん、と唸りながら遠くから確認しては近くで形を整えていく。まるで偶像崇拝だ。海に行っても少女に会えないなら意味が無い。フィガロにとって満足ならそれでいい、他に誰も見る人などいない。

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