第4話 名前

「フィガロ」

 

 忘れないようメモを取りたい。しかし部屋には紙もペンもない。ぶつぶつと少女の言葉を記憶に定着するように繰り返す。

 フィガロはそのことで頭がいっぱいで、食べ物を運んできたロボットに気が付かなかった。ブザー音が鳴り、やっと気がつくほどだ。与えられたスプーンで食べ物と呼んでよいのかも疑わしい固形物を完食し、食事を終えた後歯磨きを終えトレイをロボットに戻す。スプーンも戻そうとしたとき、ロボットはそれを待たずに帰ってしまった。

 こんなことは初めてだ。フィガロは鉄のスプーンを使ってベッド横の壁に小さく自分の名前を彫った。スプーンは枕の下に隠し、眠りにつくことにした。幾度となく見た海の夢。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る