僕らのゆくえ

三愛紫月

願い

 幼馴染みとゆうだけで、荻野目詩音おぎのめしおんの隣にいれる僕は世界一、ラッキーな男なのだ。


 そんなことは、誰に言われなくてもわかっている。


 だけど。

 何だろう。

 モヤモヤするんだ。


「卒業したら、東京に行くのよ」

「そっか」

「相変わらず、秋摩しゅうまは素っ気ないね」

「そんなことないよ」

「テレビで私がどれだけ人気者か知ってる?こないだアイチューブの再生数が1億回もいったのよ」

「わかってるよ」

「何もわかってないじゃない」

「わかってるって」

「もういいよ、そんなんだから。モテないんだよ」

「悪かったね」


 詩音が、歌手としてデビューしたのは一昨年の夏で。

 最初は、顔出しをしていなかったのだけれど。

 昨年、詩音の事務所の社長の考えで、顔出しをするべきだと言われたのだ。

 理由は、詩音の整った顔立ちだ。

 女性ファンが多くいる。

 結婚と妊娠を発表し人気に陰りが見え始めた柳井一葉の後釜を狙えるのではないかと事務所の社長は考えたのだ。

 


 その考えは当たり。

 詩音の人気は、うなぎ登りだ。

 そして、卒業後の東京行きが決定した。


「ねぇ、見て」

「何?」

「あの雲」

「わたあめみたいなやつ?」

「その隣」

「あーー、あのデカイのな」

「デカイって!天使が弓矢持ってるように見えない?」

「弓矢?天使?まあ、言われたらそんな気もせんではないよーーな」

「ねぇ、知ってる?」

「なに?」



ーー僕たちは、卒業した。

 あのあと、詩音が言った言葉の意味がわからなかったけれど。

 確かめる前に迎えの車がやってきたんだ。


「ねぇ、秋摩。雲の中にキューピッドを見た男女は願いが叶う?って知ってた?」

「知らない」

「私の願いはね」

「願いは?」

「詩音さん、お迎えにあがりました」


 今も詩音は、たくさんの生徒に囲まれていて話せない状態だ。

 僕の願いは、詩音との関係が変わらずにいたかった。

 恋人じゃなくて、幼馴染みのままでもいい。

 詩音との距離が離れないように。

 そう願っていた。



 だけど。

 現実は。


「秋摩」

「秋摩君、ボタン欲しい」

「あっ、向田さん」

「第2じゃなくていいから」

「えっ?あっ、いいよ。何ボタンでも」

「じゃあ、それ」


 委員長である向田英里奈は、僕の手についてるボタンを指差した。


「これね、はい」

「連絡先もいい?」

「うん」


 さっき、詩音が僕を呼んだ気がしたけれど。

 それは、気のせいだ。

 だって、詩音は今もかなりの生徒に囲まれている。

 詩音の願いは、多分これだ。

 

「一緒に帰らない?」

「もちろん」


 詩音の未来に僕はいらないね。

 


ーーバイバイ

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