第6話 死にゲー廃人、強敵と戦う
最初の斬撃は、音より早かった。
ブン、と空気を裂き、視界が白く弾けた次の瞬間には、既に目の前に大剣が迫っていた。
「は、速すぎ――ッ!」
紙一重で飛び退いた俺の頬に、切り裂かれた風が切りかかる。
防御なんて意味がない。
木の棒で受ければ腕ごと潰される。
最初はパリィをしようかと思ったが、今のステータスでは難しそうだ。
「フンッ!」
再び振り上げられる大剣。
今度は横薙ぎ。
低く潜って避ける。
HPバーの下、冷たく点滅する【スタミナ警告】。
息を吸う暇もない。
(とりあえず最初は攻撃パターンの解析からだ!)
モンスターがAIだからと言って攻撃パターンが存在しないわけではない。
いくつものパターンがあり、それをAIが上手く組み合わせているのだろう。
であればまず俺が最初にやるべきことは敵の攻撃のパターンをすべて読み切ること。
「あっぶなっ!」
彷徨い騎士の斬撃をギリギリで回避していく。
鎧がすれる音、小さな踏み込み、剣を握り直す動作。そのすべてが次の攻撃の予兆となる。
「くっ……速い! でも……パターンは覚えて来た!」
剣先が再び振り下ろされる。今度は斜めに切り裂くような軌道。
俺は腰を落とし、刃の下をくぐり抜けた。
(今度は横薙ぎ……いや、連続斬りだ!)
騎士が一度振り上げた剣を、ゆらりと角度を変えて連続で振り下ろしてくる。
途轍もない速さだ。
俺のステータスが足りないからなのか、目で追うことすら難しい。
しかし、俺は死にゲーで培った経験を最大限に活かしていた。
軽く跳んで刃をかわすたび、草原の土が蹴散らされ、石片が空中に舞う。
そんな俺を背後で見ていたミーミは思わず言葉が漏れる。
「信じられないにゃ……」
ミーミはありえないものを見ているかのように続ける。
「彷徨う騎士のレベルは19。今のナギ様の1レベルのステータスじゃ攻撃は避けれないはずにゃ。なのになんでナギ様は一度も攻撃に当たってないにゃ……?」
確かに彷徨う騎士の攻撃は速い。
攻撃が生じてから回避しようとすると間違いなく、間に合わずに一刀両断される。
だからこそ、
(攻撃モーションに映る前の予備動作から攻撃を予測する!)
何十回も彷徨う騎士の攻撃を避けていると、体と脳が自然と慣れてくる。
そしてその予備動作を見れば自然に体が正解へと動くようになる。
そうすれば次のステップに進めるようになる。
(次は反撃のタイミングを見定める!)
戦いとは自分の攻撃をどのようにして相手に決めるか、そう考えている人もいるかもしれない。
しかし、それは同じ実力の者同士だからこそ成り立つもの。
今の俺は弱者で、彷徨う騎士は強者だ。
弱者の俺が強者の彷徨う騎士に自分から攻撃を仕掛けようなどおこがましいにもほどがある。
下手に仕掛けようとしたところで蹂躙されるだけだろう。
なら俺はどうするのか。
その答えはただ一つ。
(確反を見つける!)
確定反撃。いわゆる確反。
基本ゲームにはフレームと言うものが存在する。
と死にゲーオタクが戦闘中にこんな話もするのも面白くないと思うので簡単に説明すると、攻撃モーションには隙があるということだ。
敵の攻撃が発生する前や後に、ほんの一瞬だけモーション固定の時間が生じる。
その“隙”を見逃さず、こちらの反撃を当てる。
それが確定反撃――確反だ。
(……狙うのはそこだ)
弱者の俺にはその絶対的な隙を狙い続けるしか勝機はない。
「フンッ!」
彷徨う騎士の剣が振り下ろされる瞬間、体が自然に反応する。
刃の動きに合わせて微妙に足を引き、腰を落とし、頭をかすめるように回避。
この攻撃は何度も見た。そして何度も見たからこそ分かる。
(この攻撃の後隙なら俺の遅い攻撃でも当たる!)
木の棒を握る手に力を込め、勢いよく彷徨う騎士の胴めがけて振りぬいた。
【カウンター成功!】
「……ッ!?」
「よっし!」
初めての打撃に彷徨う騎士は仮面の上からでも分かるほど明らかに動揺した。
こいつは今までチュートリアルエリアから出た初心者ばかり殺していたのだ。
プレイヤーに反撃されることなどなかったのだろう。
だが、それも今日で終わりである。
俺はすぐに次の彷徨う騎士の攻撃に備えて距離を取る。
システムログからも分かるように、カウンターは成功している。
ただ、カウンターは一発まで。
連続して攻撃すれば逆に自分の後隙で彷徨う騎士のカウンターを食らってしまう。
「ミーミ! 今のでどれくらいHP減ったか分かるか!」
「……」
「ミーミ?」
「……にゃにゃ!? えっと……1%ぐらいにゃ!」
「ははっ、運営は本気で勝たせるつもりがないんだな! けど余計にそっちの方が楽しめる!」
俺は口角をつり上げながら再び木の棒を握り締める。
戦闘が始まって五分は経っただろうか。
五分経ってようやく与えた一つの反撃。単純計算ではあとそれを百本である。
まだまだ時間がかかりそうだ。
その頃ミーミは離れた場所でナギと彷徨う騎士の戦闘に唖然としていた。
「……えないにゃ……こんなことありえていいわけがないにゃ」
ミーミは何度も瞬きしながら口にする。
「レベル1のチュートリアル以外の戦闘をしてない初心者が彷徨う騎士と戦って五分も生き残ってる……? 何が起きてるにゃ?」
ミーミの目から見てもナギの戦闘は異様だった。
見て避けれない攻撃をナギは五分間も避け続け、さらには先ほど一撃を返したのだ。
「チート? いやそれなら真っ先にミーミが分かるはずにゃ……もしかして本当は初心者じゃないにゃ……?」
ミーミは案内役AIとして様々な権限が与えられている。
プレイヤーには開示することは出来ないが、これまでの戦闘ログやデータなどを確認することが出来た。
「いや、そもそもエクリプスは複垢は作れないにゃ……かといって別作品について調べてみたけどナギ様の関連データやID情報はない……」
ミーミはすぐに過去のログから彷徨う騎士の討伐情報を調べる。
するとそこに記されていたのはさらに衝撃の事実だった。
「彷徨う騎士を討伐した最低レベルのプレイヤーは現在プロで日本トップランカーのケイル様にゃ。当時のレベルは10……」
レベル1とレベル10ではステータスに大きな差がある。
また、装備やスキルなどの差も大きい。
特に10レベルを超えると新たにジョブスキルを得られるためその恩恵も大きいだろう。
他にもレベルが低ければプレイヤーにデバフのような補正がかかるので討伐の難易度が跳ねあがったりなどする。
もちろん10レベルで倒しているケイルも異常なのだが、それ以上に目の前のナギはおかしかった。
「レベル1の最長生存記録は1分にゃ。もし、万が一奇跡が起きてナギ様が彷徨う騎士に勝つようなことがあったら……」
ミーミは思わず息を呑み、ナギの戦いぶりから目を離せなかった。
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