第1話 死にゲー廃人、大人気ゲームを知る
「ふぁ、徹夜明けは流石に眠いな」
早朝。結城凪こと俺は眠気と戦いながら、なんとか学校へと辿り着いた。
教室に入ると同時に、ぱっと顔を上げて声をかけてきたのは幼馴染の
「おはよう、凪! ……って、また目の下クマになってる!」
志穂は肩にかかる黒髪を後ろで軽く束ね、顔の周りの髪だけをふんわり残している。
身長は俺より低めの小柄な体つきで、制服のリボンをきちんと結び、人懐っこくて芯のある笑顔が印象的な女の子だ。
「昨日は記念すべきライトソウル3の100周目だったからな。一気にクリアしたくて徹夜だったんだよ」
「凪が死にゲー廃人なのは十分わかってるけど、体にはちゃんと気を付けてよねー」
志穂は呆れ顔をしながらも、どこか楽しそうに笑う。
彼女は俺の死にゲー中毒に理解がある唯一の友達である。
いや、正確には無理やり理解させられたと言うべきか。
幼少期からずっと隣で延々と死にゲーの話を聞かされ続け、それでも逃げ出さずに残ったのが志穂だ。
それに関しては本当に申し訳ないと思っているが、もともとゲームの趣味のなかった彼女も今では立派なゲーマーになっている。
まぁ俺がこれほど死にゲーに熱中しているせいか、死にゲーではなく有名なVRMMOなどのマルチゲームしかプレイしないが。
ちなみに俺は部活もしてないし、自ら交友関係を広げるタイプでもない。
気が付けばゲーム一筋、友達らしい友達なんて志穂しかいなかった。
志穂は、こんな俺にも今も変わらず優しく話しかけてくれる。
だからこそ人との関係を疎かにしがちな俺だが志穂との関係だけは大切にしたいと思っている。
「なあ志穂。次、俺は何のゲームをやるべきかな」
机に突っ伏しながらぼそっと相談する。
「そっかライトソウルシリーズも3で完結だもんね」
「そうなんだよなぁ。もう片っ端から死にゲーはやり尽くしたし」
幼少期から死にゲーに触れてきた俺は、既に死にゲーに関して国内外問わずやり尽くしている。
新作も三か月もあれば、全ての装備での全ボス攻略すら終わってしまう。
今のところ目ぼしい新作の情報も出ていないので、正直次に手を付けるものが思いつかなかった。
すると志穂は待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「じゃあ、息抜きに【エクリプス・リンク】やってみない?」
「前に志穂がやりこんでるって言ってたゲームだっけ?」
「そう! 通称エクリプス! 一年前に始まったVRMMOで、今一番人気のゲームなんだよ!」
志穂は嬉しそうに身を乗り出す。
どうやらかなり熱を入れているらしい。
「VRMMOねぇ。俺はソロゲーマーだし、マルチでワイワイって柄じゃないんだよな」
もちろん死にゲーにもマルチプレイは存在する。
有名なもので言えば『救難』。一人じゃ倒せないボスをマルチプレイで協力して倒す仕様だ。
実際俺も救難で他プレイヤーを助けに行きまくっていた時期はあった。
救難信号を出したプレイヤーをノーダメでクリアさせるなんて遊びもしてたっけ。
しかし基本死にゲーはソロプレイ。
現実でもソロプレイをしているような俺がみんなで協力して楽しむMMOなんて出来る気がしなかった。
「それに俺、ああいう大衆向けのぬるいゲームはちょっと……」
いつも死と隣り合わせのゲームをしていたせいか、人気ゲームをするとかなり物足りなさを感じるのだ。
たまに高難易度のゲームが大人気になることもある。
しかしすぐに調整という名の大衆受けへの路線変更が行われるのだ。
「私が凪の性格を知ったうえで、何も考えずにVRMMOを勧めてると思う?」
志穂は俺が死にゲー中毒なのを知っている。
だからこそ無駄な提案をするわけがなく、勧めてくる理由が何かしらあるというわけだ。
すると志穂はにやりと口角をつり上げた。
「実はこのエクリプス一年経ってもまだ誰も倒せていない高難易度のボスが何体もいるの!」
「へぇ……」
「ほら、今一瞬気になったでしょ~」
「うぐっ」
まるで全てお見通しとでも言わんばかりの表情で志穂は続ける。
「その理由なんだけど、単純にレベル不足とかじゃなくて、面白い理由が別にあるんだよ」
志穂はそう言うと鞄から一冊の冊子を取り出した。
表紙には黒と白の月が重なり合う紋章、その下に『ECLIPSE LINK』のロゴ。
ゲーム雑誌のようで、数ページめくるとエクリプスのカラーページで構成された特集記事が目に映る。
「はい、これ! ストーリーもかなり凝ってるんだけど、エクリプスの凄いところはAIなの!」
俺は思わず冊子を手に取り、ページをめくる。
そこには「神話を超えるもうひとつの世界」「月蝕の時、すべては永遠となる」といったキャッチコピーが並び、荘厳な都市や異形の魔物のイラストが描かれていた。
確かにクオリティは高い。大人気になる理由も特集を数ページ見るだけで頷ける。
そして次のページにはAIについて長々と語られているページがあった。
「NPCがAIってどういうことだ?」
最近、ようやくフルダイブ型のVRゲームが普及し始めた。
しかしNPCはまだAIには現状変わることが出来ていなかった。
何故ならAIにしてしまえばストーリーシナリオに変更が生じる可能性が出てくるためである。
「このエクリプスの開発会社はもともとAI開発の会社でね。その会社の最先端AIを用いて作られたゲームがエクリプスなの」
「AIの開発会社?」
「だからその最先端のAIのおかげでNPCが決まった台詞を言うだけじゃなくて、自分で考えて行動するの。プレイヤーの選択や状況によって反応が変わるんだよ。ストーリーの展開も変化する」
志穂の目が輝く。
俺は冊子を手に取り、ページに描かれた異形の魔物や荘厳な都市を眺める。
ただの大衆向けVRMMOだと思っていたのだが、これは確かに挑戦しがいがありそうだ。
「それにね、ボスもAIが制御しているから倒し方が固定されてないの。だから一年経っても誰も完全攻略できてないボスもいるってわけ」
やはり、そこに興味を引かれてしまう自分がいる。
正直に言うと、死にゲーは何週もすれば敵の行動パターンを完全に覚えてしまう。
パターン通りに動けば、攻撃は絶対に当たらない。
でも、エクリプスの敵はAIで行動パターンが決まっていない。
これが面白くないわけがない。
「少し興味が出てきたかも」
「でしょ? 凪なら絶対楽しめると思う!」
志穂は満面の笑みでこちらを見る。
誰も倒せていないの未攻略のボス、予測不能のAI。
これまで死にゲーだけをプレイしてきたが、正直そそられる。
「今、ちょうど一周年だから新規プレイヤーには特典もあるらしいし、始め時だよ!」
「そうだな。せっかく志穂もやってるんだったら始めてみようかな」
すると会話を遮るようにホームルームを始めるチャイムが鳴った。
志穂はちゃんと考えておいてね、と言い残して自分の席へと戻っていく。
これまで志穂とゲームの話をすることはあったが、共通の話題は少なかった。
死にゲーとソロ縛りをしていた俺だが、この機会に志穂と一緒にゲームをしてみるのも悪くないかもしれない。
(よし、放課後さっそくやってみるか)
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