お前の前世、もしかして…

蓮村 遼

ひょっとして、○○だったりします?

ぷぅ~ん…



蚊が来た。本当に最近多い。いくら涼しくなってきたからって、これから冬になるのに今卵産んでどうすんだよ?蚊の卵って休眠するんだっけ?



そんなことを考えながら俺は腕に止まった蚊を見た。

すぐに叩いて潰そうとしたが、すごく逃げ足が速い。でも馬鹿なのか、空振るたびに同じ場所に戻ってくる。

俺はもうどうでもよくなって諦めた。吸うなら吸ってくれ。ただし、あまり痒くならないように頼む。


逃げ上手な蚊が腰を据えたため、俺は暇つぶしに蚊の食事を見ることにした。もう好きにしてくれ。



まずはしっかりと、念入りに口を擦っている。ついでに手も擦る。

そして腰(腹と言った方が良いのか?)に手を当てて何やら細々と動く。今までまじまじと見たことがなかったため、案外面白い。


そして俺の腕をぺちぺちと叩きまわる。何か所か場所を変えた後、決まったのだろうか、叩いていた方の肢で俺の腕に何かを置く。置いた先を丁寧に何かで拭いている。





おかしくね?





どうしても工程が多い。普通の蚊の食事を見たことがないから何とも言えないが、普通、着地→探す→ブスっとやる→吸う→飛び立つで終わりだろ!




おかしな蚊は俺の気も知らず、先ほど拭った場所を前肢でヒラヒラと煽っている。

なんか見たことあるな。なんだっけ…。




思い出した。看護師さんが採血の前にやるあれだ。アルコール飛ばす奴。




え?看護師でいらっしゃる?この蚊。



俺の気持ちもよそに、蚊は穿刺角度を定めるようにやや屈む。

蚊ん護師が集中している間、俺は空いた手でスマホ検索。



穿刺角度は15~30度。合ってんだろうな…。



そういえば、さっき腕になんか置いてたけど…。あれって駆血帯?

縛る血管なんてないだろ、あれどうなってんの?




そうこうしているうちに採血が完了したようだ。棘のような何かを外す素振りを見せる蚊ん護師。あ、やっぱりあれ駆血帯だったんだ。



口を抜くとき、刺した場所を肢で抑えている。あ、アルコール綿で押さえてる。

ご丁寧にもすぐに飛び立たず、止血をする蚊ん護師。

普段血なんて出ないからそんなに丁寧な止血要らんねん。



止血を確認すると、もろもろの道具をしまい、華麗に飛び立っていった。



俺には、ただただ面白いものを見たという感想だけが残った。

良いものを見せてもらった。

あ!動画とっておけばバズッたのにな~。




さっき刺された場所は信じられないくらい腫れていた。





…。所詮は蚊だな。




俺はキンチョールをもって蚊ん護師の後を追った。

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