べれーぼー

@manao93

第1話

真っ白で空中をふわふわと泳ぐ天の創造物は何ひとつ見当たらず、そこに存在するのはこの炎天下さえも心地良いものに変換してくれるほど爽やかな群青が広がっている。それは地平線の彼方、この目の許す限りまで一望することができるである…と、解説したいところではあるのだがどうにも先程から視界に存在するコンクリートの高層建築物が邪魔をする。

 救われている点を挙げるとそれがこの場から二キロほど離れたところに存在するということだ。では周りにはどの様な街並みが広がっているのか。それは木が主として使用されている建物と量産型の古びたビルの二つが入り混じるレトロな街並みが広がっている。そう、何を隠そう私は古着屋で有名な中崎町に居るのである。そして私はスズメである!

 まぁそれはどうでもよいか。そんなことより私は見つけてしまったのだ。この中崎町にいて当然。私はとてもレトロなのだ。そう雰囲気が語っているほどに最強の「レトロオーラ」を放つ少女が私の目の前を悠々と歩いていることに。それだけではない、白を基調としていて紅の入ったワンピースを着ていてそれだけでレトロ感がすごいのだが朱色のベレー帽を被っていることによって更にそれが強調されている。私は一年以上究極の「レトロオーラ」を纏わせている人間を探していたのだがこの少女は究極を超えて最強の領域に立ち入っている。ついに私の夢が叶ったのだ。では記念にこの少女に密着してみようではないか。ちなみにカバンから少し学生証が見えてしまったのだが少女は森松要という名前らしい。

 少女は少し歩いた所を右に曲がり木造建築の古着屋の前で立ち止まった。店先には紫陽花が植えてあり照明がランタンで出来ている。彼女はそれらをまじまじと熟覧した後に入店した。私は入るわけにはいかないから半開きになっている窓から様子を伺うとしよう。

「このベレー帽はちょっと赤すぎるかなぁ」

 新しいものを買いに来たのか。私にはわからない違いだな。流石最強の少女だ。

「うん、これにしよう」

 どうやら同褐色のベレー帽を購入する様だ。

「お会計〇〇円になります…お客様、今被っているベレー帽と剣用で使われるのですか? もし使用しないのであればここで売却することをお勧めしますが」

「どっちも被るので大丈夫です」

 これはびっくりである。この年頃の少女ならばお金に飛びつくはずなのにこの少女はベレー帽の事を一番に考えている様だ。これが

 最強の秘密なのか。

「ご、ご利用ありがとうございました」

 私同様に衝撃を受けたスタッフを尻目に木造のドアへと歩き出したその時、店内にバックミュージックとしてシティーポップな音楽が流れる。少女の口元が柔らかくニヤけた。。好みの音楽も彼女様様である。そのまま私たちは古着屋を後にした。

 少女は夢の中へと潜入してしまった。あの後少女は自宅へ帰宅したし、映画を鑑賞し始めた。カサブランカという1640年代のモロッコが舞台のロマンス物である。その先は察しの通り段々と睡魔が発生し、映画よりも先に彼女の瞼が幕を下ろしてしまったのである。

 このタイミングで睡眠をとることによってどの様なレトロが供給されるのだろうか。よし、私も一眠りしてみるか。

 スズメが目を覚ますと夜を超えて日が昇ってしまっていてその絶望感から少女のことを密着することを忘れてしまったそうな。おしまい。

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