第13話 浩平だけ
電車に乗るがやはり土曜日のせいか、人が多く座ることはできなかった。しかし、動けないほどの込み具合ではなかったので、ドアの近くに立つことにした。
「一応、買うものは厳選してきたの、全部は買えないし、お金もそんなにないしね。」
スマホのメモを見ながら綾乃は話してきた。
「今使っているものと、同じものがあった?」
「ううん、同じものはなかったけど、気になっていたものはあったよ。」
左腕は金属製の柱に絡ませて、体を支えつつスマホを操作し、右手は僕と握ったままだ。
僕は右手で吊り輪を握っている。
周りをチラ見すると、綾乃を見ているであろう男性の目線が少なからずあることがわかる。
綾の方を見ると全く気にするそぶりはなく、スマホをいじっている。僕の視線に気づいたのか顔を上げた。
「何?どうかした?」
軽く笑顔を作り小首をかしげてきた。
(これだけ可愛かったら、誰でも見るよな・・・)
自分もその一人だと自覚している。
「い、いや、何でもないよ・・・。」
「ふ~ん。」
綾乃はまたスマホに視線を落とした。
目的の駅に着き、電車を降りて駅を出てショッピングモールへ歩いていると、綾乃の気分がなんだか上がったような気がする。
「なんだかテンション上がったような気がするのは、僕の気のせい?」
「え、わかる?そりゃ上がるよ!コスメを買いに行くし、夏帆さんみたいになれると思うと上がらない理由はない!」
左肩に掛けているバッグを握りしめ、力強く綾乃は言い切った。
そんな綾乃もたまらなくかわいいと思いつつ歩を進めた。
ショッピングモールに着き、化粧品売り場に行くとフロア全体が明るく感じる。男子高校生が普段行くことはないため、フロアに足を踏み入れるだけでドキドキしてくる。
しかも完全に浮いているし・・・。
「あ、綾乃。僕はその辺のベンチにでもいるから、目的のもの以外もじっくり見てきて。」
「そうね、そうしようかな?」
「僕の事は気にせずにゆっくりいいよ。」
「わかった。じゃあ、行ってくるね。」
綾乃は手を振ってフロアの中へと入っていった。
僕は少し離れたベンチに腰を下ろす。ある程度化粧品売り場を見渡せるので、綾乃が出てきてもすぐに分かる。
今日は土曜日なので人は多いが、全く見えない訳ではないので大丈夫だろう。
15分くらい経ったころだった。
「あれ?庄野?」
すっかり油断していたため、驚いて声をしたほうへ顔を向ける。
そこには岡田がいた。傍らには何度か会った彼女がいる。デート中なのだろう。
ぺこりと彼女は頭を下げてきた。
「お、岡田…、ど、どうした?」
思わず立ってしまった上に、焦っているのがわからないように平静を装う。
見ればわかることを聞いてしまった。
「いや、見りゃわかるだろ?デート中だけど…、お前は?」
当然の質問が返ってくる。
「お、俺は買い物に来て、ちょっと休憩してた・・・。それよりお前、今日は部活じゃ・・・。」
「ああ、明日の休みと入れ替わったんだ。」
「そ、そうなのか?」
チラッと化粧品売り場の方を見たが、綾乃の姿は見えない。
僕の目線に気づいた岡田が聞いてくる。
「誰かと一緒なのか?」
「い、いや、一人だけど・・・。」
「なんか店の中見てたけど?」
「かわいい子いたな~、と思って・・・。」
「ふ~ん・・・、ま、いいや。じゃあ、また学校でな。」
岡田が歩きだすと彼女さんも僕に笑って手を振り、僕も手を振り返したことを見つつ、岡田と去って行った。
「はあ~・・・。」
大きくため息をつくと体から力が抜けて、そのまままたベンチに座り込んだ。
(よく考えてみたらうちの学校の生徒がいてもおかしくないし、たった2駅でいろんな施設があるから、そりゃみんな来るよな・・・)
逆に今まで遭遇しなかったのが不思議なくらいだ。綾乃と一緒にいるときに遭遇した時の返しや、綾乃が戻ってきたあとの行き先などを15分ほど考えていると、綾乃が出てきた。
辺りをキョロキョロ見渡したので、僕が立ち上がるとすぐに見つけ、笑顔で駆け寄ってくる。
その姿をみると誰に見つかってもいいや、という気持ちになる。こんなにかわいい女の子が隣にいるのだ。別にやましいことは何もない。まあ、わざわざ自分からは言わないが・・・。
「ごめんね、時間かかっちゃった。」
そばまで来ると、両手を顔の前で合わせて謝ってきた。
「いや全然、大丈夫だよ。何ならもう少しかかるかも、とか思ってたからね。夏帆さんが使っていた物はあった?」
「うん、あったよ!下地でしょ、ファンデーション、フェイスパウダー、リップでしょ…ついでにチークも買っちゃった。店員さんと話していたら長くなっちゃって…。」
購入したものを見せてくれたが、僕にはよくわからなかったが、綾乃が嬉しそうにしているのが何より大事だ。
「よかった!だけど、メイクしてますます綾乃がかわいくなるのは嫌だな・・・。」
「何で?」
バッグに僕に見せてくれていた品物をいれながら聞いてきた。
「だって、綾乃に告白する人が増えるかも・・・。」
その言葉を聞き、綾乃の手が止まる。
「だ、大丈夫だよ。学校には今と変わらない感じで行くし、それに…今日、買ったのは浩平と会う時にしか使わないから・・・。」
顔をほのかに赤く染めつつ、上目使いで僕をチラチラ見ながら伝えてきた。
「僕にだけ・・・?」
綾乃がうなずく。
今まで綾乃は「浩平だけ」と言って色んなことをしてくれた。
それがまた一つ増えたのだ。
それを考えると心臓の鼓動が一気に高鳴る。
(やっぱり超絶かわいいよ!)
「それにずっと断ってきたから、告白してくる人はもういないだろうし、もし来ても断るから、心配しないで・・・。」
残りをバッグにしまいながら綾乃は言ってくれた。顔はまだ赤い。
「・・・ありがとう、メチャクチャ嬉しいな。」
僕も顔が赤くなっているに違いない。
「な、なんか食べに行く?」
今は午後1時50分くらいだが、出てくる前に食べてきたためそこまでお腹は空いてはいないが、話題を変えようと思い聞いてみる。綾乃も食べてくるとは言っていたが・・・。
「う~ん、まだいいかな?浩平が空いているなら行ってもいいけど?」
「僕もまだ耐えられそう。じゃあ、ちょっとお店とか見てまわる?」
「そうね、何かいいお店あるかも!」
僕たちは手をつなぎ歩きだした。
「さっき、『メチャクチャ』て言ったよね。」
「うん、言った。気に障ったならごめん。気をつけるよ。」
「ううん、違うの、嬉しかった。やっと素の浩平を出してくたなあ、って。」
左手で左の後れ毛を触っている。
「たくさん話してきたけど、まだぎこちないというかなんというか・・・。」
僕も普通に話していたつもりだったのだが、やっぱり綾乃に少しは緊張していたところがあったのかもしれない。
「出していたつもりだったんだけど、どこか緊張していたのかもね。これからはもっと出していくかも?」
「いいよ、どんどん出して!そうすれば距離も近づくし、ポイントもアップ…かもよ!?」
綾乃はニヤリと笑っている。
「わかった。じゃあ、よろしく!」
目が合い少し間があったあと、2人で笑いあった。
やっぱり綾乃との時間は心が弾む。この時間が長く続いて欲しい。
浩平累積ポイント 136ポイント
交際開始ポイント ???ポイント
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