「オーバーロード」のリアル世界

Ittoh

第1話 |ピンクの肉棒な粘体《Pink Elder Ooze》とリアル世界①

ピンクの肉棒な粘体Pink Elder Oozeとリアル世界①


[newpage]#01 滅びゆくリアル世界のNazarick

 「オーバーロード」と言う作品で、一番好きだったのが、ぶくぶく茶釜である。21世紀、国家が崩壊し、貧富の差が拡大したことで、脊髄にニューロナノマシンを実装する、人体実験の素材を、企業が大量に用意することができた。


 アーコロジーに設置された孤児院、空気も水も食料も、効果で貧乏人が買えない時代に、孤児院が維持できるのは、大量の人体実験用素材を確保するためであった。人体実験の目的は、DMMO等の実験素材だけでなく、食料生産システムの開発や、大気や浄水システムの開発にあった。


 野生に生きる、人間以外の生物は、ほとんどが消えていって、人間が食べる食料は、人間を使って生産しなければならなかった。

 動物性タンパクの生産は、人間の多様性幹細胞に、遺伝子と生体情報を実装し、成長させることで、食材の原料を確保するというものだった。植物性タンパクの生産は、多様性幹細胞内で生体環境を形成し、培養液を生成しエネルギー発光体を使って、藻を用いた光合成と培養生産システムとして形成することで、量産を可能としていた。

 シュメール叙事詩に描かれた終末世界。

「人間が森の神フンババを殺した時、人類の発展が約束され、森が滅び砂漠となることが、運命づけられた」

「地上には、人間が許容した、動物や植物だけが住まい、人間のための世界が形成される」

「人間以外が、消え去った地球環境下」で、人類の生残を図る計画が、企業によって策定されていた。


 ぶくぶく茶釜は、注文書を思わず、読み返していた。ペットとしての生き物、ジャンガリアンハムスターの生産と、注文書に書かれていた。

「ペットか、相変わらず、金持ちだねぇ・・・餡ちゃん・・・」

 ペットも生きるために、空気・水・食料が必要となる。ペットのために、アーコロジーで空気・水・食料を払える金持ちは、それほど多くは無い。餡ちゃんこと、餡ころもっちもちは、一握りの金持ちであり、アーコロジーの上流社会に所属していた。


 自分の多様性幹細胞に、ジャンガリアン・ハムスターの遺伝子と身体情報を実装し、遺伝子と身体情報から生物の生成を開始する。生物の生成は、かなり難しく、遺伝子と身体情報からであっても、情報と同じ生き物ができるわけではない。生まれたジャンガリアン・ハムスターをゆっくりと成長させて、躾をある程度実施して、餡ちゃんのところへ送る。

「餡ちゃんは、良い主人だ、幸せに暮らしな」

そう呟いていた。


 既に、地上に居た生き物は、遺伝子と身体情報となって、大量に保管されていた。「ノアの箱舟」を模した、プロジェクトとして、巨大企業で実行されていた。遺伝子を採取して、身体情報を確保すれば、遺伝子と身体情報をデータとして保管することは、それほど難しいことではなかった。


 “Nazarick”の第九階層、私クミコぶくぶく茶釜の私室には、大量の遺伝子と身体情報が、データクリスタルで保管されている。モモンガ君が、パンドラズアクターに、私クミコぶくぶく茶釜を含めたギルメンを残しているように、私クミコぶくぶく茶釜は、ギルメン全員の遺伝子と身体情報を、データクリスタルで保管していた。


[newpage]#02 残されたデータクリスタル

 “Nazarick”にインして、宝物殿に跳ぶ、宝物殿は、Nazarickに所属しているのではなく、ギルドAOGに所属している。“Nazarick”が陥落した場合は、宝物殿を死守しながら、撤退するというのが、ギルドAOGの防衛戦略であった。


 白麗の骨格、モモンガ君の姿で待っていた。私クミコぶくぶく茶釜は、モモンガ君に向かって文句をつけた。

「だめよ、モモンガ君は、反則でしょ」

「は、申し訳ありません、義母様おかあさま

 右手を真っすぐ上げるように、直立不動の姿勢を取ると、軍服姿のドッペルゲンガ多重の影に戻る。何時も、宝物殿に常駐するパンドラズアクターに、私クミコぶくぶく茶釜は分体を寄生させて、並列思考と自律行動でNPCが動けるようにしていた。

「はい」

 パンドラズアクターに、RoAOGを渡して、霊廟へと向かう。

 過疎化が進んで、霊廟には、ギルメンの姿が化身像アヴァターラとなって、装備を付けたまま保管されていた。

「ほんと、可愛いよ、モモンガ君」

飾られている化身像アヴァターラには、ゲームを引退した、私自身ぶくぶく茶釜もあって、ワールドペアエネミー討伐記念、神級アイテム蒼とピンクの盾伏羲と女媧の盾を構えていた。


 私自身ぶくぶく茶釜は、声優の仕事で、練習場所が必要で、“YGGDRASIL”はリアル世界と、時間が異なるので、練習時間が確保できる・・・そんな名目で、私自身ぶくぶく茶釜は、装備をモモンガ君に預けて、引退した後も、RoAOGを使って宝物殿を練習場所としていた。


 霊廟には、幾つか暗く化身像アヴァターラが置かれていない場所がある。その一つに、データクリスタルを置いて、ピンクな触手で手?を組んで、黙祷を捧げていた。

「取りに来るモノが無い、データクリスタルだけど、いつも通り保管するよ、ベルリバー・・・」

 霊廟は、本当に霊廟となった。リアルで、超記憶能力を保有しているぶくぶく茶釜を、ベルリバーはデータの中継として利用していた。私のエロゲ特典に課金すれば、データを私が記憶して、 “Nazarick”にインして、記憶をデータクリスタルとして保管することができる。ぶくぶく茶釜としては、エロゲ得点で課金してくれれば、高額収入となるので、歓迎していた。

 ぶくぶく茶釜は、取得したデータを、ベルリバーから聞いて、記憶することで、データクリスタルを作成し、保管することができる。


[newpage]#03 公然の秘密は、知っていても、伝えないことで守られる

 22世紀のリアル世界は、小学校すらまともに行けない時代で、知識にはかなり制限がかけられていた。販売されている食料は、合成食が殆どであり、人間の多様性幹細胞に、家畜の遺伝子と身体情報を組み込んで、動物性タンパクが生産されていた。


 22世紀のリアル世界は、容積が貴重な時代に、牧場など維持できるわけも無く、実際に人間が、牛を捌くことは無い。牛の遺伝子と身体情報から、人間の多様性幹細胞を使って、牛肉を生成しているだけであるが、高価すぎて一般人は、食べることができない。工場で水耕栽培される、サラダなんかは、高価すぎて普通の人間が食べることはできない。


 食料の生産については、食料用の3Dプリンタが、様々な食料を生成していると教えられていた。

「嘘では無いのよね・・・」

6歳で、赤子だったぺロロンチーノを抱えて、両親が死んで、孤児となったぶくぶく茶釜は、孤児院で食料生産に携わって、食料生産の実態を知った。6歳の子供に、生きる選択肢は、最初から無かった。

 アーコロジーで生活する、最低限の空気・水・食料と住処・・・購入する費用はすべて借金であり、借金を返済するためには、仕事の内容を問うことはできなかった。

 自分の細胞で、多様性幹細胞を生成し、粘体スライムを構築する。粘体スライムの体内で、多様性幹細胞を受精卵として、遺伝子と身体情報から、食肉を生成する。実際に成長させるのは、かなり難しく、失敗すると骨と肉に内臓が混ざったような、物体?が出来上がる。私自身ぶくぶく茶釜、牛一頭生産できたが、特定部位だけを生産できるようになるのには、かなり時間がかかった。


 原罪という言葉は、人間が生まれてから、罪を重ねずに生きることはできない。リアル世界の現状で言えば、私自身ぶくぶく茶釜を含めて、共食いしなければ生きていけないのが、リアル世界であった。植物性タンパク質の生産も、量産できるのは、粘体スライムの体内に、藻を繁殖させて生成する方法であった。やまいこさんの実家がやっている、水耕栽培の植物工場は、大金持ち向けの製品であったが、それでも肥料等の生成は粘体スライムがおこなっていた。つまり、人間が生きるということは、排泄物が生じることであり、排泄物を処理して還元しなければ、アーコロジーを維持することはできない。効率的に排泄物を処理するのも、粘体スライムの仕事であり、“YGGDRASIL”というゲームでも、下水処理は粘体スライムの仕事になっていた。


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